エルサレム28日=当間敏雄】イスラエルのシャロン首相は28日の閣議で、ヨルダン川西岸のジェニン難民キャンプでの「住民虐殺疑惑」の真相を究明する国連調査団の現地入りを再度、延期するように求める提案をし、閣議はこれを了承した。調査方法などを巡り国連との完全合意ができていないことが理由で、調査開始はさらに遅れる公算。パレスチナ住民に対する人権侵害が調査され、戦争犯罪の追及にまで発展することを警戒しているためで、協力拒否をちらつかせ調査団の活動内容や権限に最大限の制約をはめる構えだ。
ペレス外相は「だれが証言するかはイスラエルが決める」と述べ、軍将兵の証言者の人選の権利がどちら側にあるかで国連と対立していることを明らかにした。イスラエル側の延期要請は今回が3度目になる。
当初、イスラエルは「何も隠すことはない」として国連調査への協力を表明した。虐殺を証拠づける材料がパレスチナ側から出ていない上、軍が無人機からの空撮映像などを含め作戦を記録しているため、住民を意図的に大量虐殺したとの疑惑そのものは否定できるとの判断で「汚名をはらす機会」とさえ見ていた。
しかし、アナン国連事務総長が、調査団にアハティサーリ前フィンランド大統領、緒方貞子・前国連難民高等弁務官、ソマルガ前赤十字国際委員会委員長を任命して事態が一変した。
政治家、人道問題専門家が中心のチームで、国連側の関心が「虐殺」の有無ではなく、パレスチナ住民の人権侵害一般に向けられているとの懸念がイスラエル側に強まったためだ。
すでに国連のラーセン中東特使は「武力の過剰行使や国際機関の救援活動への妨害があった」と批判している。難民の住居破壊や、救急車の活動妨害などが、民間人の保護を定めた国際人道法の観点から調べられ、戦争犯罪の問題に直結する事態も否定できない。
イスラエルは、政府代表団を国連本部に派遣、すでに〈1〉軍証言者の免責特権〈2〉証言者の秘密性保持〈3〉調査をジェニン難民キャンプに限定する――などの条件を国連側に認めさせたとされる。調査団の勧告に基づく形で、国際部隊をパレスチナ自治区へ派遣するとの議論が強まることも警戒しており、事実調査以上の「勧告」などを行わないようさらに強く要求している。
(4月29日00:49)