【バグダッド小倉孝保】ブッシュ米政権はフセイン・イラク政権打倒を計画しているが、米国がイスラエル・パレスチナ衝突の仲介に手を取られている現状を受け、イラク国民の多くは当面、「攻撃は先延ばしされた」と一安心しているのが実態だ。フセイン大統領は国民の体制批判をかわしつつ、攻撃を回避するため対米戦略を練っているとみられる。
国連制裁下、長く閉鎖されていたバグダッド空港は改修工事を経て最近、再開した。7日深夜、入国手続きを待っていると「米国からの最新情報を教えてくれ」と空港職員が小声で問い掛けてきた。一般国民の間でも、米国の政策に対する関心は高い。だが、衛星放送受信は政府官庁など特殊な場所以外では禁じられ、多くの国民がより正確な情報を求めているのだ。
米軍の攻撃について尋ねると、ほとんどのイラク人が「必ずある」と確信を持って答える。古い商店が並ぶバグダッド・ラシッド通りで出会った小学校教師(41)は「湾岸戦争(91年)では親類が死んだ。いつ、米国が攻撃してくるのか、とても心配だ」と話した。また、飲食店主のカーデルさん(37)は「ブッシュ(米大統領)の発言をいつも気にしている。だが、攻撃を避けるため自分にできることはない」と半ばあきらめ気味だ。
地元ジャーナリストによると、同時多発テロを受け、米軍がアラブの反対を無視してアフガニスタン攻撃を続けたことで、イラク国民はたとえ国際社会の大勢が反対しても米国はイラク攻撃に踏み切ると感じるようになったという。
厳しい言論統制下、フセイン政権を公然と批判する声は街頭では聞けない。だが、ジャーナリストの1人は「イラク国民には親フセインも反フセインもいる。だが、大多数が現体制を好んでいないのは確か」と打ち明ける。国連経済制裁下、大半の国民は「90%の国民は食べてゆくのがやっと」(バグダッド大教授)だ。だが、フセイン政権への反感以上に、国民の反米感情が強く、仮に米国がフセイン政権打倒に出ても、イラク国民の共感をどこまで得られるのかは即断できないという。
フセイン大統領は最近、パレスチナ人の自爆テロ犯の家族に対する見舞金を倍増したほか、イスラエル寄りの姿勢を取る米国に抗議し石油輸出を停止した。西側外交筋は「米国がイラク攻撃に踏み切るためにはアラブ諸国の支持を得ることが不可欠で、当面、パレスチナ問題に集中せざるを得ないとイラク国民は感じている」と指摘する。フセイン大統領はパレスチナ情勢をにらみつつ、米国への揺さぶりを強化するとみられる。(毎日新聞)
[4月12日19時24分更新]