2002年4月8日 2:20pm PDT ワシントン発――
かつて米国とロシアが独占していたスパイ衛星の高解像度画像データは、今日では誰もが容易に入手できるようになった。ノウハウや資金がほとんどない敵でも衛星画像を入手できることを考えると、米軍部は戦略を見直す必要がありそうだ。
精度こそ米国の用いる衛星に劣るかもしれないが、五指に余る国々と一部の民間企業は確実な軍事情報を提供できるスパイ衛星を保有している。
「衛星技術は過去数十年間、米国の独壇場にあった。しかし、中国やインドなどの国々がだんだんと高性能な偵察衛星を配備するようになり、米国の圧倒的優位もぐらつきはじめている」と、米中央情報局(CIA)のジョージ・テネット長官は、先日開かれた上院の公聴会で述べた。
テネット長官は、敵は衛星の利用方法を驚くほどのスピードで学びつつあると語った。
「外国の軍隊、情報機関、テロ組織は、偵察衛星と併せて、民間のナビゲーション・サービスや通信サービスを活用して、計画立案や作戦遂行を強化している」とテネット長官。
以前は米国に匹敵する衛星技術を保有する国はロシアだけだった。
現在では、仮に台湾紛争をめぐって米国が空母艦隊を派遣した場合、中国は独自のスパイ衛星により、その位置や構成を把握できるだろう。
11年前の湾岸戦争で米国は、ペルシャ湾から攻撃を仕掛ける構えを見せながら、西側の国境から多国籍軍による空爆を行なった。もしイラクのフセイン大統領が、現在販売されているような民間の衛星写真を手に入れられたなら、軍を移動させて多国籍軍の急襲を迎え撃つこともできただろう。
米ロ以外の国に見られる最近の進歩は、主に独自の研究の成果であって、技術の購入やスパイ行為によるものではない、と専門家たちは述べている。偵察衛星技術の大半は米国が開発してきたものだが、現在は諸外国が同様の技術を開発している。
「われわれは今や独占状態を失いつつある」というジェイムズ・ルイス氏は、かつて商務省と国務省で宇宙政策立案にたずさわり、現在は戦略国際研究センターに勤めている。「湾岸戦争のあとで諸外国は、宇宙軍事力を持つことはきわめて好都合だと気づいた」
米国の軍事衛星は今でも世界一の性能を誇る。つまり、解像度が非常に高く、広い地域をカバーしているのだ。衛星の数が多いため、一定のエリアの撮影頻度も多い。『フューチャー・イメジェリー・アーキテクチャー』プロジェクトの一環として、新世代スパイ衛星も計画されている。
しかし、今やほかの国々も高解像度画像の入手手段を持っており、戦車を数えたり、艦隊を追跡したり、米軍の動きの予想に役立つさまざまな情報を入手したりできる。
つまり、仮想敵国が米国の偵察衛星による探知を逃れるために用いてきたのと同じテクニックを、今度は米軍側が実践せざるを得ないことになると専門家は語る。たとえば、戦車は木の下に隠し、極秘プロジェクトは、偵察衛星が上空を通過する時間帯は建物の中に隠す。
アフガニスタン空爆の開始後数ヵ月間、米国は当時最高の性能を持っていた民間衛星イコノスが当該地域を撮影した画像に独占的にアクセスできる権利を買った。イコノスを運営する米スペースイメージング社は喜んで権利を販売した。この結果、アフガニスタンの実情を垣間見ることは誰にもできなくなった。
だが、米国が今後の戦争でも同じことをするかどうかは不明だ。米国は自国衛星の「シャッター制御」が可能だが、外国の保有する衛星まではコントロールはできないからだ。海外の民間企業も、画像データを米国に独占的に販売したいと望まない場合も考えられる。
この問題を手がけてきたマック・ソーンベリー下院議員(共和党、テキサス州)は、解決策として、衛星からのデータ送信や地上局のデータ受信を電波等で妨害する方法を軍に開発させることを提案した。
「敵が情報を持てば持つほど、われわれは攻撃を受けやすくなる」とソーンベリー下院議員。「しかるべき時期に、妨害電波をはじめ可能な手だてを考える必要がある」
米国も旧ソ連も、大規模な戦争が起こった場合に相手のスパイ衛星を撃ち落とす武器の開発に力を注いできた。しかし、そうした技術に対する関心は薄れている。
戦略国際研究センターのルイス氏は、米国が最高レベルの衛星を構築する技術力を失いつつあるのではないかと懸念していると述べた。衛星部品の輸出に新たに規制が設けられる一方、最新技術への移行が遅れているため、米国のメーカーは閉鎖に追い込まれているという。こうした輸出規制策は、クリントン政権が、米航空宇宙メーカー2社に中国のロケットで打ち上げる衛星の輸出を許可したことに対する調査が行なわれたのを受けて実施されるようになった。
[日本語版:岩崎久美子/山本陽一]