【イスラマバード春日孝之】インド西部グジャラート州の最大都市アーメダバードで、先月27日に起きた列車放火事件を機にイスラム教徒へのヒンズー教徒の報復事件が続発し、各地で暴動が広がっている。国防省は1日、事態沈静化に向け陸軍を派遣したが、これまでに200人以上が殺害された。暴動が全国規模に飛び火する可能性もあり、情勢は予断を許さない。
列車放火事件は、ヒンズー至上主義組織「世界ヒンズー協会」がインド北部のヒンズー教聖地アヨディアで裁判所の命令を無視して、ヒンズー寺院再建要求運動を強行したのがきっかけだった。アヨディアの集会に参加したヒンズー教徒が列車で帰る途中、イスラム教徒が放火して58人のヒンズー教徒が焼殺された。以来、報復事件が相次いでいる。
警察によると、翌28日にはヒンズー教徒の群衆がイスラム教徒の住宅に次々放火し、子供12人を含む38人が焼死した。また、イスラム教徒が経営する商店やホテルが略奪や放火の標的になり、約20人が殺害された。さらに、暴動を制止しようとした警官隊の発砲で6人が死亡した。
フェルナンデス国防相は1日朝、現地入りし、陸軍を動員して治安維持への対応を開始した。しかし同日、両教徒の新たな衝突が発生、警官1人が群衆に殴られたうえ、焼き殺される事件も起きた。警察当局は「死傷者は増え続けている」と話している。
一方、世界ヒンズー協会は1日、インド西部ムンバイ(旧ボンベイ)で、列車放火事件への抗議のため、列車運行を止め、全国規模でのストライキを呼びかけた。しかし、全国に宗教暴動が拡大する呼び水になる、との懸念が広がっている。
同協会が要求するヒンズー寺院の再建は、歴史的にインドの宗教対立の最大の火種になっている。92年の宗教暴動はムンバイが主舞台となり、2000人以上が虐殺された。このためムンバイ警察は1日、予防措置としてヒンズー教活動家ら245人を拘束した。
インドの連立政権を率いるのは、世界ヒンズー協会の政治組織、インド人民党だ。92年の暴動の引き金になったのは、人民党が「アヨディアのモスクは16世紀にヒンズー寺院を破壊して建設された」と主張し、ヒンズー教徒を扇動しモスクを破壊した事件だ。人民党は、その跡地での寺院再建を公約に掲げ大躍進し、政権を得た。
しかし、バジパイ首相は連立を組む多数の少数与党に配慮し、再建計画を取り下げ、両教徒に法的解決を訴えていた。ところが、世界ヒンズー協会は1月から、3月15日を期限に政府に再建をうながす大規模な運動を展開。裁判所の「アヨディアでの集会禁止」命令を無視し、約2万人が参集した。(毎日新聞)
[3月1日19時21分更新]