U.N.のアナン事務総長や「文明諸国」の主要メディアは、昨日のブッシュ大統領の和平をもたらす新しい提案として歓迎しているようである。
日本のメディアは、ブッシュ提案を、「イスラエル軍に即時撤退を要請」を中心に報道しているが、「イスラエルの軍事行動は正当なものである」・「責任はテロを防止できなかったアラファト議長にある」・「アラブ諸国とアラファト議長は、自爆テロなどをテロだと認めて非難し、テロを停止させなければならない」という内容と一体のものである。
イスラエルの経済的・軍事的後ろ盾であり世界で最高の影響力を誇る米国が動かなければ問題が解決に向かわないという考え方はわかるが、これまでの歴史で、米国が動いたことで事態がよりこじれより悲惨な状況に陥った例がどれだけあったかを冷静に考える必要がある。
今回のブッシュ提案を、ことさら、予定の言動だろうと言うつもりも、西岸地区の未侵攻都市がエリコだけという状況(イスラエル軍の用はとりあえず済んだ)になった時点で行った意図は何なのかという問いかけもしない。(ブッシュ政権は、事前に声明の内容をシャロン政権を伝達済みとのこと。4・5の「ABCワールドニュース」)
なぜ“ブッシュ提案が危険な罠”であるかという問題に絞る。
「アラブ諸国は、自爆テロなどをテロだと認めて非難し、テロを停止させなければならない」という内容を含んでいるブッシュ提案の条件で合意ができるのは困難だろうが、できたと仮定してもいいし、まったく合意ができないままイスラエル軍が“一方的に”撤退したとしてもいい。
(アラブ諸国は別として、アラファト議長ができもしない条件を呑んで合意するかもしれない。しかし、治安部隊が残されていてもテロを防止することはできないと思われるのに今回の侵攻で治安部隊さえ根こそぎ捕虜になってしまった状況ではなおのこと防止することなんかできない。アラファト議長が「テロの防止」を約束したら、イスラエルや米国のエージェントだという証である)
どういう経緯にしろイスラエル軍が撤退したとする。
しかし、生存基盤を強奪され長年にわたりシオニストの暴虐と非道に怒りを抱き続けている人、この数日の間にも家族や知り合いがイスラエル軍に虐殺されて激しい憎悪を抱いている人、ただでさえ貧困に喘いでいるのにこの数日の侵攻で家や自動車を壊されたり室内をめちゃくちゃにされて怒っている人など、イスラエルに対する敵意を高めている人は数多くいる。
“イスラエル領内”に入って行う攻撃は難しいとしても、命をかければ、パレスチナ自治区にある入植地には攻撃を仕掛けることはなんとかできる。
そのようなテロ攻撃が数回起きれば、シャロン政権は、イスラエル軍に命じて、再びパレスチナ自治区に攻撃を仕掛けることになるだろう。
「合意」があればなおのこと、「合意」がないままでもイスラエルがブッシュ提案を一方的に受け入れて軍隊を撤退させていれば、イスラエル軍の再侵攻に対する国際世論は、現在とは大きく違うものになるだろう。
さらに言えば、ブッシュ政権までもが、パレスチナ人の攻撃(テロ)をイラクやイランなどが支援していると何らかの“証拠”を示し、「中東和平をぶち壊したテロリスト支援者」としてそれらの国に攻撃を仕掛ける根拠にすることも考えれる。
ブッシュ政権の介入や提案を好ましいものとして喧伝しているメディアも、「悪いのはパレスチナであり、アラファトであり、アラブ諸国である」という主張に転換する可能性が高い。
このボードの大勢がそのようになるとは思っていないが、そのようなメディアの変化に影響を受ける可能性もあると思う。(あまりにもとんでもない一方的なシャロン政権の虐殺に怒りを感じた後だからこそ、“平和”を崩した勢力に非難や憎悪が向きやすくなる)
9・11空爆テロ以降の動きでブッシュ政権がパレスチナ問題に介入すること自体に危険性を感じるだけではなく、このようなことからも、今回提示された条件でブッシュ政権が「パレスチナ問題」に介入することに大きな危惧を抱かざるを得ない。
あのような内容のブッシュ提案で、「パレスチナ問題」が解決の方向に動くと期待すること自体が誤りである。
イスラエルと併存する「パレスチナ国家」が承認されても同じである。
(アラファト議長やアラブ諸国はそれで収拾したいと考えるかも知れないが、パレスチナ人の少なからぬ人たちが戦いを継続するだろう。イスラエルも、占領地はともかく入植地の返還までは実行できないだろう)
根本的な解決は、1947年のU.N.決議案を取り消し、パレスチナ全域をパレスチナルールで統治することでしか実現できないと考えている。
U.N.加盟国は奏すべきだと思うが、「アフガニスタン虐殺戦争」まで支持している現在のU.N.や「文明諸国」がそのような道を選択するとはとうてい思えない。
(U.N.や「文明諸国」(日本やドイツは未加盟だったが)の自己否定につながりかねないものである)
そうであれば、パレスチナ人は、イスラエル国民がそのような選択をするまで戦いを続けるしかないだろう。
パレスチナ人の様々な戦いを通じて、イスラエル国民の多数が「もうこんな状態の国家で生活するのはゴメンだ。国を出ていくか、昔のようにアラブの統治ルールに従う」と思うようになるまで追い詰めなければ問題は解決しないだろう。
その戦いでパレスチナとイスラエルの双方に数多くの犠牲者が出ることになるが、そう遠くない時期に、シオニスト国家「イスラエル」は消えていくことになると確信している。