【ロンドン岸本卓也】欧州連合(EU)が16日のバルセロナ首脳会議で推進を決定した欧州独自の衛星測位システム「ガリレオ計画」に、宇宙技術の軍事転用を恐れる米国が強く反対している。米国による測位技術の独占状態を崩す同計画は、宇宙技術の民間利用による経済利益を与える反面、高度軍事技術の拡散という地球規模の安全保障問題を突き付けている。
衛星を使った測位システムは衛星から出る電波を捉えて利用者に地図上の正確な位置を知らせる。測位衛星は米国とロシアが運用しているが、技術的に米国がロシアを圧倒している。敵や味方の位置を正確に察知し、精度の高い攻撃を保証する軍事技術として重要性が増している。
一方、測位技術は経済的な魅力がある。すでに民間の船舶や車両のナビゲーション(航行)に利用されているが、迷子にならずに目的地に到達できる機能を携帯電話に組み込むアイデアなど高い市場価値が認められている。このため、衛星を管理する米国防総省は公開可能な技術水準の低い測位情報を米国や同盟国に提供してきた。
しかし、宇宙産業の振興に熱心なフランスやイタリアが「米国の独占は許されない」とEUに「ガリレオ計画」の推進を要求してきた。計画には20個以上の衛星の打ち上げが必要で、開発費用は30億ユーロ(約3500億円)に達する。英国などがコストの高さを理由に渋ったが、ドイツが賛成して推進が決まった。
米国は昨年9月の米同時多発テロで核兵器など大量破壊兵器のほかに、宇宙技術についても国際テロ組織やテロ支援国家に悪用される危険を訴えている。昨年末にはウォルフォウイッツ米国防次官がEU各国の国防相に計画の中止を求める書簡を送った。
衛星を使った技術は電算機と連携させてシステム化する。電算機システムには電算機に侵入して国家に打撃を与えるサイバー・テロの脅威がつきまとう。測位システムは軍事作戦の中枢機能を担うだけに米国は技術の流失や悪用に神経をとがらせている。(毎日新聞)
[3月18日11時10分更新]