昨年9月の衝撃的な米同時多発テロから、11日で半年になる。ブッシュ米大統領が宣言した「テロとの戦争」は、今や世界規模の作戦へと拡大しつつある。しかし、アフガニスタン攻撃を開始した時点で最大の標的であったウサマ・ビンラディン氏も、タリバンの最高指導者オマル師も、捕捉できないままだ。その背景には何があるのか。
◇「ビンラディン氏の所在、わからない」米国
ビンラディン氏やオマル師の所在をめぐる報道は米国内では最近めっきり少なくなった。「所在は分からない」(パウエル国務長官)のが実情だろう。米当局者によると戦闘が続くガルデズ周辺に同氏が潜んでいることも考えにくいという。
米テレビは1月、ビンラディン氏が海路脱出した可能性やパキスタン領内に逃れた可能性を報じた。逃走先としてはイエメンやソマリアも上がったが、両国の当局者は否定している。
約5カ月に及ぶアフガン攻撃の中でビンラディン氏が死亡した可能性もあるが、裏付ける有力情報ははない。また、アルカイダによる新たなテロを警戒する米政府としては、死亡説は打ち出しにくいところだ。 【ワシントン布施広】
◇ビンラディン氏所在情報、軍事上の最高機密に パキスタン
ビンラディン氏の所在について、パキスタン軍情報機関(ISI)に近い筋は「CIA(米中央情報局)が知らなくても、ISIが知らない可能性は限りなくゼロに近い」と語る。
ISIにとってアフガンは裏庭のようなもの。寒村に至るまで情報網を張り巡らしているうえ、所在情報を軍事上の最高機密と位置づけているからだという。
しかし、ムシャラフ・パキスタン大統領は6日の日本人記者団との会見で「情報はない」と言い切った。その上で「アフガンにいる可能性が極めて高いと思う」とし、生死は「五分五分」と答えた。1月には「病死の可能性が高いと思う」と発言していた。
同筋は「大統領は状況は把握しているが、言えない。しかも、そのこと自体、悟られたくないというのが真相だろう」と語る。理由はこうだ。
パキスタンにとって、ビンラディン氏が生きていようが死んでいようが関係ない。どちらでも米軍はアルカイダ掃討を名目にアフガン軍事作戦を続け、パキスタン駐留を続けるからだ。問題は、同氏の所在を米国に知らせれば、情報ルートをたぐられる可能性が極めて高くなる。タリバンを支援してきたISIとアルカイダの過去の関係が明らかになるのを極度に恐れているというわけだ。
一方、タリバンのオマル師の所在情報は「アフガン南部」に集中している。同じパシュトゥン人部族が、米国に対する反感やパシュトゥン人としての民族意識、「客人」を守るという伝統から保護しているとみられる。
パキスタンやアフガン暫定行政機構がオマル師の所在を知り得ないはずはないが、米国に引き渡すより、知らないふりをしているメリットの方が大きい。今もオマル師に共感を寄せるパシュトゥン人は多く、暫定行政機構が逮捕すれば、そうした勢力を完全に敵に回すことになるからだ。 【イスラマバード春日孝之】
[毎日新聞3月10日] ( 2002-03-10-22:11 )