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「風速計」(9/27発売429号)
欺瞞温泉に注意しよう
椎名誠
この頃全国になんだかやたらに新しい温泉ができているような気がする。温泉を名乗る基準がいくつかのレベルで緩和された、というような話を聞いたことがあるので、そんなことに関係しているのだろうか。まあフロ好きの日本人である。わざわざ山奥の火山地帯やアプローチの悪い遠隔地まで行かなくても、町中に沢山の温泉ができるというのはいいことだ。
けれどひとつ気になるのは、昔から有名な温泉といわれるところに行って「やれうれしや」とその温泉に入ったとき、どうもヘンな気分になることがある。いかにも温泉でござい、と湯船の片方から沢山のお湯を流し続けているのだが、縁までいっぱいになった湯はいつまでたっても溢れないということがある。読者の皆さんもそういう温泉に出会ったことがあるでしょう。
最近いくらか賢くなって、そういう温泉は湯船の中に溢れないようにお湯を回収する装置があり、濾過されたお湯がまた沸きだし口にどどどっと流れ出てくる。いうところの循環式の温泉というものがあるのを知った。このことを知ってから、あちこちの温泉に行くたびに注意深く見回すと、いや実にこの循環システムになっているところが多いのだ。気になるのははたしてそのお湯がどのぐらいの期間、閉ざされた回路を循環しているのだろうか、ということだ。
先日泊まった四国のある超有名な温泉歓楽街の宿は、「24時間いつでも入れます」とうれしいことをいってくれた。夜更けに目が覚めて、また風呂に入ったのだが、なんだかあたり一面カルキ臭いのだ。なんとなく塩素の匂いもする。ふいに小学生のころの夏休み、ほとんどプールで過ごしていた時期のことを思い出した。塩素の匂いのする温泉というのも少々悲しい。一緒に行った友人は酒に酔っていてそんな臭いに気がつかないのか「温泉をのむと体にいいんだよね」といって湧き出し口からガブガブお湯をのんでいる。
山梨県のそれこそ山奥の湯治場では、真夜中に湯に浸かっているとその背後から間歇的にごーごーという音がする。よくそんな音をたてて湯が噴き出してくる温泉があるから、ああいい具合の湯だなあ、と思っていたら、どうもその音と湯のわき出るタイミングとは関係なく、やがて背後から石油の燃える匂いがしてきて、どうもいろいろとあやしい温泉なのであった。
最近のニュースでは、こういう循環式のお湯からレジオネラ菌をはじめとしたアメーバや細菌が多く見つかっているという。温泉だあ!と嬉しがって酔いどれで入っているとこういうニセモノに気づかず騙されてしまう。循環システムの風呂などは何千人というおとっつぁんのケツを洗ってきているわけだから間違っても「体にいい」などといってムヤミに温泉をのまないことですね。きっと体に悪いと思う。