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引きこもり脱出 スローワークの視点が大切だ
引きこもりの若者が増え、社会問題になっている。その数は全国で約百万人とも推計されている。
長期間、家に閉じこもって家族以外の他人との人間関係を拒む状態は普通ではない。どうしたら彼らを社会に引き戻せるかは、難しいが放置しておけない問題だ。
引きこもりの若者の中には、精神科に連れていかれ、薬を投与されるなどしてかえって深く傷付いているケースもあるという。
これに対し「引きこもりは病気ではない」と言い切り、引きこもりの若者の社会復帰を支援する活動に取り組んでいる団体がある。
千葉県浦安市に本部を置く民間非営利団体(NPO)法人「ニュースタート事務局」だ。
生活体験や仕事の体験を積ませることで自立を促しているその活動と試みに注目し、若者の引きこもり問題を考えてみたい。
八月末、この団体が主催する講演会が新潟市で開かれた。引きこもりから脱出した男女五人が体験を披露し、意見を述べた。
明るく語る五人は、どこにでもいる普通の若者だ。ぎらぎらした競争心や野心の持ち主とは程遠く、自分の生き方を模索して不器用にあがく青年たちだった。
彼らはなぜ引きこもるのか。ニュースタート事務局代表の二神能基さんは「自分の未来が見えず、先が真っ暗だからだ」と説明する。
解決法は、そんな彼らに未来が見えるようにしてやればいい。引きこもり解決の三点セットとして「訪問部隊」「若衆宿」「仕事体験塾」をつくって取り組んでいるのが興味深い。
訪問部隊は、引きこもっている若者を根気強く訪問して家から引き出す。若者と年齢の近いスタッフや引きこもり克服者が当たる。
若衆宿は、若者たちが共同生活をしながら生活体験を積む寮だ。「家でない居場所」であり、自分たちで食事づくりや掃除、洗濯をする。
仕事体験塾は労働体験や社会体験を積むための場だ。高齢者のデイサービスと託児所事業、情報通信(IT)事業、喫茶店やレストラン、農業などいくつかの事業を行っている。
中でも、高齢者のデイサービス事業は「ここの若者たちは優しい」とお年寄りの評判がいい。
介護など福祉現場は本来人間中心のはずだが、仕事の実態となると能率重視だ。ニュースタートのメンバーが外部の介護サービス事業所などに勤めても付いていけないという。
ところが、彼らがゆっくりした自分のペースでお年寄りに接すると、それが非常に喜ばれる。彼らには「人の役に立ちたい」という願望も強い。
そこに着目したニュースタートでは自前の働く場づくりを広げている。
その際のキーワードは「スローワーク」、つまり「ゆっくりしたペースで働く」ことだ。これは重要な視点を提起している。
引きこもりの若者たちは、効率至上主義や競争原理が支配する企業や学校にはなじめないのだ。引きこもるのは、競争や効率優先の社会では生きにくいという訴えである。
だから、彼らのペースに合うゆったりした働き方が可能な場が用意されれば立ち直れる。
彼らが持つ「スローな優しさ」は、効率やスピードに価値を置く社会では落ちこぼれとしか評価されない。
しかし、物差しを替えれば、お年寄りに歓迎され、高齢社会に求められる貴重な能力だといえる。
効率追求に疲れているのは若者ばかりではない。中高年もまた長時間労働や過酷なノルマを課せられ、過労死や自殺に追い込まれている。そんな働き方こそ貧しいのではないか。
スローワークを普及させていくことは、私たちの社会全体にとっても大きな意義を含んでいる。
[新潟日報9月16日(月)]