ワクチン接種による感染の危険があるポリオ(急性灰白髄炎=小児まひ)について、厚生労働省は18日、1964年から続けてきた生きたウイルスを使った「生ワクチン」接種による予防施策を改め、ウイルスを殺して有効成分だけを残したより安全な「不活化ワクチン」接種に全面的に切り替える方針を固めた。専門家の意見も聞いたうえで、早ければ来年度からの実施を目指す。
国内では、自然界に存在するウイルス(野生株)での感染例は80年を最後に報告されていないが、ワクチン化したウイルス(ワクチン株)による感染例は、同年以降も18例報告されている。同省では、生ワクチンを使用し続ける限りポリオ根絶は達成できないと判断、“薬害ポリオ”対策に乗り出す。
日本では64年から生ワクチンの予防接種が続いてきた。現在も年間120万人への接種が続いている。
海外では、米国、カナダ、フランス、ドイツなど主な先進国では不活化ワクチンを使用。中国、インド、ブラジルなどが生ワクチンでポリオを予防している。
経口接種の生ワクチンは注射接種の不活化ワクチンに対し、〈1〉乳幼児への投与が楽にできる〈2〉予防効果が高く、接種回数も少なくて済む〈3〉費用が安い――などの利点がある。
一方、400万回の接種に1回の割合で、体内で突然変異を起こして強毒化したウイルスによるポリオ患者が発生。580万回に1回の割合で接種した乳幼児の便などを介して家族らが2次感染する危険がある。国立感染症研究所の宮村達男・ウイルス第2部長らのまとめによると、国内では1980年以降、ワクチン株による感染者が18人(生後4か月―37歳)いる。うち8人はワクチン接種歴がなく、ワクチン接種者からの2次感染だった。
野生株の駆逐に成功した厚労省は、生ワクチンを不活化ワクチンに一斉に切り替えることで、これらワクチン株による感染も防ぎ、真のポリオ根絶を目指す。
◆薬害防止へ大きな一歩◆
【解説】厚生労働省が、ポリオの予防接種を「生ワクチン」から「不活化ワクチン」に切り替える方針を固めたのは、「不活化」は“薬害ポリオ”の感染リスクが極めて低いことが最大の理由だ。米国やドイツなどの先進国では「不活化」が主流となっている。日本で38年間続けられてきた「生」からの転換は、すでに国内から駆逐された野生株感染に続き、将来の薬害被害を未然に防ぐ意味で大きな一歩となる。
しかし、今回の政策転換でも、ポリオの2次感染による過去の被害者の救済制度が未整備な点が課題として残された。現行の予防接種法は、予防接種でポリオに感染した被害者に対し、通院・入院費の補助などを行うと定めているが、対象は1次感染者だけだ。
血液製剤によるC型肝炎やヒト乾燥硬膜が原因の薬害ヤコブ病を教訓に、同省は、血液製剤などによる薬害被害者や2次感染者の救済制度を導入する方針を決めている。だが、ポリオの2次感染者の救済は想定に入っていない。
1970年以降、日本では36人のワクチン株感染者が発生、うち16人は2次感染者だった。同省幹部は「2次感染者は少数で、予防接種が義務付けられていた94年以前にワクチンを接種していれば防げたはず」とも言う。
とはいえ、こうした患者に対する救済制度がないままでは、真のポリオ対策とは言い難く、早急な対策が求められる。(政治部 古川 肇)
(4月19日08:51)