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小泉純一郎首相「就任一周年」を翌日に控えた四月二十五日。一月に破たんした永代信用組合(東京都江東区)の借り手中小企業の経営者ら二十人が、国を相手取って損害賠償訴訟を起こした。
永代信組の突然の破たんでは多くの中小企業が融資打ち切りなどで連鎖倒産に追い込まれている。下町の地域経済の実情を考えない画一的な金融検査で、中小企業を破壊に導くことには納得できない、というのが経営者たちの主張だ。
従業員六人の電気設備工事会社を経営する遠藤電工の遠藤昭夫社長(57)もその一人。客からの設備工事代金が後払いになっているため、つなぎ資金を三十年来のつき合いの永代信組から借りていたが、破たんで資金調達の道が閉ざされた。
「これでは、新規受注もできず立ち腐れするしかない。ダイエーを救って、中小企業を切り捨てる不公平な政策は憲法違反ではないか」。遠藤社長の怒りは収まらない。
小泉政権になってから、金融庁が破たん処理した信組、信金は計五十五機関。第二地銀も二行がつぶれた。金融機関が破たんした時、預金の払い戻しが全額保証されなくなるペイオフ制度の四月解禁を前に、体力のない金融機関をあらかじめ市場から「退場」させておくのが“破たん促進”の狙いだったが、その影で関連倒産に追い込まれる中小企業も急増。地域経済の衰えに拍車を掛けている。
「構造改革が進んでいる表れだ」−。昨年十二月の青木建設の破たん直後、小泉首相は胸を張った。しかし、青木建設の主力銀行だったあさひ銀行の株価は急落。金融危機が現実味を帯びると、小泉政権は急におじけづく。柳沢伯夫金融担当相が大手スーパー、ダイエーの主力銀行の頭取らに債権放棄による救済を直接要請。ダイエーの救済策をモデルにフジタ、飛島建設など、バブルに踊ったゼネコン、不動産に対する主力行の債権放棄が次々決まっていった。
「ダイエー破たんは小さな影響では済まない。政府としてできるだけの措置を講じて危機を回避する」−。一月十八日、ダイエー救済策が決まった直後の小泉首相の口ぶりは、青木建設の時とは百八十度変わっていた。
日本経済全体の「血液循環」をもう一度、活性化させるための戦略だった小泉政権の金融再生策。それがなぜ、いつの間にか「大企業救済、中小企業切り捨て」の歪(ゆが)んだ経済政策にすり変わってしまったのか。日銀のある幹部は「政権自体に金融再生の『骨太の方針』がなかったことが最大の要因」と指摘する。
日本では株式投資する人が少なすぎて、ベンチャー企業など伸び盛りの企業が証券市場から資金を調達しにくい。また、郵便貯金や、官僚が天下る政府系金融機関など公的金融の割合も大きすぎる。本来なら、不良債権処理という“敗戦処理”と同時に「時代遅れ」の金融制度を根本からつくり直し、企業への新しい資金供給ルートをつくるべきだった。地域を支える中小金融の在り方も再検討の必要があった。
しかし、金融行政は市場に催促されるがままの後追い策に終始した。証券投資優遇税制や公的金融の改革も、自民党税制調査会などの「抵抗勢力」により骨抜きにされてしまった。その結果、不良債権処理が進めば進むほど、デフレ不況も深刻化する「悪循環」の側面ばかりが拡大。デフレ緩和のための景気刺激策の“援軍”もなく、結局、不良債権処理自体が「大企業は救済」への方針転換で腰砕けになってしまう。
年度末の「三月危機」を何とか乗り切った小泉政権にとって、今こそが金融再生策を再構築する絶好機のはず。しかし、政府内に漂うのは危機を回避できたことへの安心感ばかり。「次の一手」は何もみえてこない。
(池尾伸一、近藤歩)