CBは転換転換社債のことですが、MSCBという社債を知っていますか?株式投資をするに当たっては、これを知らないといつの間にか大怪我をしてしまうことも大いにあり得るかも?
MSCBとはMoving Strike convertible bondの略であり、日本語では俗に「転換価格(下方)修正条項付き転換社債」と呼ばれるものです。先日に仕手筋と呼ばれるある会社役員が株価吊り上げ容疑で逮捕された事件で、株価吊り上げのターゲットとなった志村化工も、この社債を発行していました。
以下は、この間日本経済新聞に掲載されていた、「円建転換社債型新株予約権付社債発行に関する取締役会決議公告」の一部です。この社債はMSCBとは厳密には異なるものですが、仕組み自体はほぼ同じなので、これを用いて説明したいと思います。
1.当初転換価額は96円とする。
2.2002年5月10日を初回と新株予約権の行使期間中の各月第2金曜日(日本時間、以下「決定日」という。)までの各3連続取引日(決定日当日を含む。)の東京証券取引所における当社普通株式の株価の加重平均値で1円未満を切り下げた金額が、当初転換価額又はその時点で有効な転換価額を1円以上下回る場合は、転換価額は当該決定日の翌営業日(日本時間)以降上記により算出された金額に修正される。ただし、転換価額は50円を下回らないものとする。
3.募集方法 特定海外投資家による個別買取引受による私募(ただし、アメリカ合衆国を除く。)
これはどういうことかと言うと、社債発行当初の転換価額は96円ですが、将来当該社債発行企業の株価が下がると、50円を限度として転換価額も下方に修正されていくということなのです。これが、株価の下落により転換価額が下方に修正される条項が付いている社債、「転換価格下方修正条項付社債」の特徴なのです。
さらに、こうした社債はまず例外なく、海外タックスヘイブンに本籍を持つヘッジファンドによる私募形式となっています。
では、なぜMSCBを発行する会社が株主を食い物にしてしまっているのか、その理由を説明します。
MSCBを発行する会社のほとんどは、業績が長年低迷しているような、株価2桁程度の低位株です。そして、こうした会社は、業績低迷のため、資金を調達したくても、金融機関からの借入もできず、通常の増資といったような資本市場からの資金調達もままなりません。資金を調達できないと会社は資金繰りに行き詰まり倒産してしまいます。そんなところに、海外ヘッジファンドにつながりのあるような人物が、MSCB発行の話を持ちかけるわけです。
会社としては、資金調達ができるので、大喜びでこの話にのることでしょう。一方、引受先であるヘッジファンドは、業績のよくない会社が倒産してしまう前に、社債引受の資金の回収をする必要があります。そこで、大株主から株券を借りてきてひたすら空売りして、会社の株価を下げるのです。すると、上で述べた転換価額下方修正条項により、転換価額は下がりますから、そこで社債を株式に転換して、株券を借りていた大株主に転換した株式を返すことにより、1株あたりで空売りの平均単価と転換価額の差額だけ儲かることになります。また、ヘッジファンドは投資資金を回収するためにこのような方法で社債を転換しますから、発行会社にとっても将来社債償還をする必要がなくなります。発行会社にとっては増資と同じような効果を得ることができるわけです。
MSCBにより一番のとばっちりをくらうのは既存株主です。まずMSCB発行により、ヘッジファンドが空売りを仕掛けてくるでしょうから、必然的に株価は下がります。さらに、企業がMSCB発行を繰り返すと、ヘッジファンドはその都度株式に転換しますから、発行済み株式の数は膨大に膨れ上がります。すると、新日鉄株などを見ると分かるとおり、発行済み株式が増えるとそれだけ値動きがゆるくなりますから、株価が上昇しにくくなります。そして、仮にやっとの思いで上昇したとしても、上値には早く売りたい投資家の戻り売りの攻撃にあってしまいます。
MSCBは発行会社にとっては禁断の麻薬のようなものなのです。発行時は社債でも、ヘッジファンドが株式を転換することにより、調達資金を将来返還する必要がなくなりますから、会社によってはMSCB発行を繰り返してしまいます。すると、MSCB発行→株価下落の果てしなき連鎖が続いてしまうのです。これはまさに既存株主を食い物にしているとしか言えません。おそらく、MSCB発行企業は、既存株主のことなど頭の中にないのでしょう。いや、そうではなく既存株主のことを構っている余裕自体がないのかもしれませんが。
MSCBを発行している企業は数十社ほどありますが、ほぼ全ての企業が株価2桁で底這いの動きをしており、一向に上昇する気配がありません。それどころか、北の家族、ケイビー、イタリヤードなど、MSCB発行企業の倒産も続出しています。こうした会社はMSCBによってヘッジファンドにさんざん甘い汁を吸われた後の抜け殻のようにも思えます。
もし自分の投資先の企業がMSCBを発行することが決定したなら、その企業は長期投資の対象からははずすべきだと思います。その後の株価下落は決定したようなものですから。すでにMSCB発行企業の多くが株価の低迷、さらには相次ぐ倒産と悲惨な末路をたどっていることを考えると、直ちに売却したほうが良いのかもしれませんね。
加藤武夫
提供:株式会社FP総研