ゴールド・サーベイ2001(☆)
金市場の需給を見る上での指標となるサーベイ(調査報告書)がロンドン時間の4
月24日に公表された。
ロンドンをベースにする調査会社ゴールド・フィールズ・ミネラル・サービシィズ
(GFMS)が毎年この時期に公表するもので、前年の世界の金需給を定量定性的
に分析した調査データでいまや金の世界ではバイブル的存在となっているものであ
る。
最初の一文が「2001年は金市場が転換点に立った年として記憶されるのではな
いか」で始まる110ページを上回る今回のサーベイの要点を見てみよう。
数値データの方は、今年の1月30日配信号で取り上げた「速報」の延長線上のもの
ではあるが、この間に進んだ市場センチメント(市場参加者の心理状態)の大幅な
改善を裏付ける内容となっている。そこにいくつかの懸念事項を抱えたままの主要
金融市場の状況や緊張感漂う国際情勢など外部要因の変化を加味したことで、近年
にはなく価格面で強気ムードの漂うサーベイとなっている。
価格見通しは、前回の速報発表の際に2002年上半期の価格帯(レンジ)を27
0ドル〜295ドル、平均282ドルとしていたが、今回は年内285ドル〜31
5ドルへと上方修正している。昨年のこの報告では、256〜273ドルとしてい
たので、時間の経過とともに強気に転換してきたことがわかる。同サーベイは1年前
には「米国あるいは世界的景気後退の波が金融市場の波乱につながらなければ、金
価格は狭いレンジに始終し、むしろ値下がりの可能性がある」としていたのであ
る。その後、「9・11同時多発テロ」を境に世界的に“治安”や“平穏”“平
和”という概念に対してナーバスな機運が高まっているが、そうした世相も投資家
の関心を金市場へ向かわせ、鉱山ヘッジの減少など市場内の独自要因の改善と相ま
って市場センチメントの転換につながったということであろう。
需給分析の要点を上げてみよう。
まず鉱山ヘッジであるが、既存のヘッジの買戻しが速報段階よりさらに増額され1
47トンとなった。調査開始以来始めてプラスになった2000年の数値が15ト
ンだったので鉱山がヘッジ戦略の見直し姿勢を強めている(4月15日配信号参照)裏
付けとなる数字と言えるが、さらに注目点は「その多くが10〜12月期」に実施
されているということである。つまりその流れは今年に入っても続いていると考え
られ、先週指摘したように、したがってそれが公表される今来週の鉱山各社の決算
発表に注目としたわけだ。思えばこの項目は90年代には平均して1年間に約240
トンの売り越しを続け、特にそれが95年以降は345トンにスケールアップし、
99年単年では506トンにも膨れ上がっていた。イメージとしてはマイナスに振
り切れた「振り子」が急速にプラスサイドに戻り始めている、というところか。売
った(供給)ものを解消する(需要)動きとなるので、当分マーケットには“フォ
ロー”となりそうだ。ちなみに2001年12月末時点でのヘッジ残は3067トン
とされている。
昨年のポイントのもうひとつは、投資需要の回復である。特に前年2000年にユ
ーロ安を背景に24%も金価格が上昇し大量の売り物が出たヨーロッパ主導の動き
が終息したのが2001年の特徴だった。同サーベイでは「投資」の項目は欧米の
投資動向を示し、日本などその他地域は「地金退蔵(Bar hoarding)」という項目
で示される。その「投資」が売り越しではあるが、2000年290トンから20
01年53トンへと237トン減っている。しかも「通期」で売り越しではあるも
のの「半期ベース」で見た場合7〜12月期は買い越しに転じているのである。ユ
ーロが落ち着くにつれ売り一巡感が出るとともに「同時多発テロ」以降の投資環境
の変化を反映し、投資需要が復活傾向を示したことによる。
鉱山生産は全体としては斬増傾向が続いている。前年比20トン増の2604トン
となった。目立つのは、世界最大の産金国南アの減少である。前年から34トン
(8%)の減少となり48年ぶりに400トン割れとなった。ピーク時の70年に
は1000トンもの産出量を記録しており、2位の米国に首位の座を明渡すのも時
間の問題との見方もある。それほど南アの減少のピッチが早くなっている。すでに
堀り始めて100年以上経過しており、鉱床の劣化(優良鉱床の減少)が進んでい
るということである。前回取り上げたように、このあたりに南ア大手鉱山が他地域
の鉱山(あるいは鉱区)取得に動く動機のひとつがあるわけだ。
需要の最大項目、ジュエリーの方は171トン(5.4%)減少し3006トンと
なった。その他加工需要を加えた総量では3490トンと249トン(6.7%)
の減少を記録している。世界景気の後退を受けての減少、とりわけ「同時多発テ
ロ」以降の米国の落ち込みがおおきいが、それまでの高成長を受けた前年の水準と
の比較という側面も落ち込みの背景として指摘できる。
一部中央銀行の売却など公的部門は高水準ながら横ばい(504トン)となってい
るので、全体の構図としては、景気後退によるジュエリー中心の加工需要の減少と
鉱山ヘッジの買戻し、投資需要の復活の綱引き状態に金市場は置かれていると言え
る。そして足元で先行きの見通し難い金融市場や国際政治の動向を映し投資需要が
勢いを増していることが、金価格の堅調さにつながっているわけだ。(4月25日記)
金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎