クジラをこのまま捕らないと、30年後には、三陸沖からサバが消える――独立行政法人・遠洋水産研究所(静岡県清水市)の岡村寛研究員らが衝撃的な数字をはじき出した。商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)で増えたクジラがサバのえさであるカタクチイワシなどの小魚を大量に食べてしまうのが理由で、25日に山口県下関市で始まった国際捕鯨委員会(IWC)年次会合の科学委員会に報告する。
かつて、日本の沿岸で捕っていたヒゲクジラ類のミンククジラは、ブラシのようなヒゲで、プランクトンの一種・オキアミをこしとるようにして食べ、魚は食べないとされてきた。
日本は国際捕鯨取締条約に基づき、1994年から北西太平洋で調査捕鯨を実施している。同年から99年にかけて三陸沖で捕獲したミンククジラ108頭の胃の内容物を、日本鯨類研究所(東京)が、詳しく分析したところ、5、6月はカタクチイワシ91・6%に対し、オキアミはわずか1・8%。7―9月もサンマが53・2%に上り、オキアミは35・6%にとどまっていた。
こうしたデータから岡村研究員らは、今後50年間、捕鯨が行われないと仮定し、三陸沖の代表的な海洋生物30種の資源量の変化を、食物連鎖などの要素を基にシミュレーションしたところ、30年後にはサバが“全滅”、シマガツオやメカジキは半減、50年後にはサンマも半減するという結果が出た。
三陸沖は、全国のサバの漁獲高の6分の1を占める重要な漁場で、水産庁遠洋課の森下丈二課長補佐は「日本近海では、クジラと漁業は競合している。このままでは漁業に深刻な影響が出る可能性が高い」と指摘している。