「実は甲信越地区に本店を置く信用組合が、この4月1日以降、資金ショート寸前の状況にまで追い込まれつつあるのです。今後の状況の展開しだいでは、“ペイオフ適用第1号”となる可能性が高い、と言っていいでしょう」
金融庁幹部が声を潜めつつこう言ってみせる。
1週間ほど前のことだ。超ド級の極秘情報がもたらされた。その“極秘情報”とは前述した内容のものなのだが、その内容があまりにもナイーブな性格のものであるため、今回その一件を紹介するにあたっては、慎重に検討させていただいた。
しかし、「ペイオフ解禁とは、預金者に自己責任原則を負わせることに他ならない。そのためにも、適切な情報開示−つまりディスクロージャーは絶対に必要不可欠」(大手都銀首脳)という指摘にも押される形で、あえて取り上げてみることにした。
ただし、その問題の信組を経営破たんに追い込むのは本意ではない。従って、ここでは問題の信組についてはZ信組という形で表記するにとどめる。
「4月に入って、Z信組から預金の大量流出が続いているのです。こうした傾向はペイオフ解禁前の4月以前からあったことなのですが、この4月1日以降、預金流出は加速しつつあるのが実情です。そしてとうとう預貸率が95%のラインを突破してしまったのです。まさに危険領域に達してしまった、と言えるでしょう」(金融庁幹部)
ここで言う“預貸率”とは、「貸出金÷預金」という計算式で求められる数値だ。改めて指摘するまでもなく、預金の流出もしくは貸出金の増加はこの数値を上昇させることになる。
「マーケットでの資金調達が事実上不可能な信金、信組にとって、預貸率が100%を上回ることはあり得ない。つまり、預貸金率が100%を超えた瞬間に資金ショートの状態に陥る」(大手信金理事長)
いわゆる“ペイオフ時代”に突入し、不意の預金流出に備え、各信金、信組は意識的に預貸率を低めに誘導している、と言っていいだろう。
大阪に本店を置く信金理事長が言う。
「当信金の場合、適正預貸率は70%程度に設定しています。それというのも、10%程度の預金流出が発生しても耐えられるだけの経営体制を敷くためです」
こうしたコメントから判断しても、預貸率95%という水準はあまりにも異常だと言えよう。
「Z信組の場合、その自己資本比率は2001年9月末段階で4%をちょっと上回る程度なのです。言うまでもなく、自己資本比率に関して国内基準が適用される信組の場合、最低必要ラインは4%です。こうした点が預金者の不安を呼んでいる可能性が高い」(金融庁幹部)
そして、Z信組ではこのまま預金流出が続けば、確実に資金ショート−つまり資金繰り破たんに追い込まれる可能性が高い、と言っていいだろう。
果たして、金融庁は、事態をどのような形でソフトランディングさせるのか、今後の展開には要注目だ。
2002/4/24