商法改正により新たに「新株予約権」制度が創設されました。西友が米ウォルマートとの資本提携に利用したこの「新株予約権」、企業が導入するには税の取扱いをもっと議論する必要が!?
改正商法が今月より施行され、企業は、自社の取締役・従業員以外の者に対しても予め決められた価格で株式を取得することが可能な「新株予約権」を付与できるようになりました。
■ 改正商法による「新株予約権」導入予定会社は?
ローソン(2651)は、4月16日、取締役・執行役員・従業員(管理職)に対するストックオプション付与のために新株予約権を発行することを、5月29日に開催を予定している株主総会に付議することが決議されました。
西友(8268)は、株価が大きく上昇していますので既に御存知のことと思いますが、米ウォルマートとの包括的資本提携の手段として第三者割当以外に、次のような3種類の新株予約権を付与することを5月下旬に開催予定の株主総会に付議することとされました。
(1)2002年12月末までの行使期限の新株予約権
→発行済株式総数の33.4%までの株式を1株当たり270円で取得する権利
(2)2005年12月末までの行使期限の新株予約権
→発行済株式総数の50.1%までの株式を1株当たり270×1.05円で取得する権利
(3)2007年12月末までの行使期限の新株予約権
→発行済株式総数の66.7%までの株式を1株当たり270×1.10円で取得する権利
上の2社をはじめ、実際に、企業では新株予約権の利用した財務戦略について準備を開始しているほか、新株予約権付与を条件として融資を行う銀行も出てきているようです。
これまで、経済界や学界をはじめ活発な議論が行われた末、企業の多様な財務戦略に資することが期待され導入された「新株予約権」制度ですが、税の取扱いについての議論が少ないように思われます。西友の事例についても割当先が外国企業ということもあり税の取扱いに関しては大きく取り上げられませんでしたが、仮に割当先が内国企業である場合は税の取扱いが焦点になりそうです。
今回は、改正商法で導入された新株予約権と税の取扱いについて考えてみましょう。
■ 原則としてストックオプションは付与時に課税されない
ストックオプション(新株予約権)には税制適格とそうでないものに分かれます。ストックオプションの権利行使価格は付与時の株価より高く設定されることが一般的ですが、一定の要件を満たした税制適格ストックオプションは権利行使時における課税が繰り延べられ、売却時にキャピタルゲイン(【1】権利行使価格と権利行使時の株価との差額+【2】売却時の株価と権利行使時における株価の差額)として課税されます。一方、税制適格ではないストックオプションについては権利行使時と売却時それぞれに課税され、課税の繰り延べの特典は受けられません。重要なのは、ストックオプション(旧商法下の新株引受権の場合)が付与された時の付与時の株価と権利行使価格の差額に対して課税されてこなかったという点です。
■ 西友の新株予約権は付与時に課税される?
西友の事例の新株予約権は税制適格でないものに分類されると思われますが、問題は従来のストックオプション課税の解釈では非課税であった権利行使価格と付与時の株価との差額についての経済的利益への課税です。
仮に、4月20日に米ウォルマートに西友の新株予約権が付与されるとすると、4月19日現在における西友の株価576円に対して権利行使価格270円の新株予約権が付与されることになり、従来(旧商法の新株引受権)の税当局の解釈では差額の306円(576-270)については付与時に課税されず、権利行使時にその時の株価と270円の差額に対して課税されることになります。一方、時価(576円)より著しく低い270円で第三者割当増資による新株発行を行った場合には、同時に差額の306円に対して課税されることになっています。
つまり、時価よりも著しく低い価格により行う第三者割当増資による資本提携より、新株予約権付与の方法を選択した方が、権利行使時まで課税が繰り延べられ資金効率面で有利となるのです。(また、権利行使時における西友の株価下落は、米ウォルマートの納税額の減少を意味します)
■ 税当局の対応の遅れが企業の新株予約権の利用に混乱をもたらす?
改正商法の施行後約1ヶ月近くが経過し、上述のような疑義があるにも関わらず、税当局からは何の見解も出されてはいません。
これまで、税当局における対応の遅れ・見解の不一致の結果、海外の親企業から日本における現地法人の役員等に対するストックオプションの課税問題について社会的に大きな問題を発生させました。
今回も同様の事例が発生しないか懸念されるところです。
阿波一行
提供:株式会社FP総研