ソニーの金融戦略が揺れている。20年以上の歴史のあるソニー生命の売却案が浮上したのをきっかけに、内部からの思わぬ抵抗が。ソニーの金融ビジネスは一体どこに向かおうとしているのか?
「ソニーよ、おまえもか」という声が聞こえてきそうな、今回のソニー生命の売却騒動。既に新聞報道もされているので、ご承知の読者も多いかと思いますが、ソニーが100%子会社である、ソニー生命の保有株を米GEグループや米大手保険会社のプルデンシャル、オランダの保険会社であるエイゴンの3社と売却の交渉に入ったものの、ソニー生命の社員が強硬に反対しており、交渉が難航しているというニュースです。
ソニー生命の社員が反対する理由としては、外資に買収された他の生保は、財務の健全性に問題があったり、または破綻していたというそれなりの“理由”があったの対して、ソニー生命自体は、財務的にも高い健全性を誇っており、格付け会社の格付けも高く、かつ業績も他の生保と比べて比較的好調のため、内部の人間からすれば「外資に売却する理由がわからない」ということのようです。またソニー生命の場合、他の生命保険会社と違って、男性の営業社員が約4500人ほどおり、高い専門知識を武器にいわゆる“コンサルティング営業”を他社に先駆けて行ってきた歴史があり、保険販売のプロフェッショナルとしての自負が、今回の売却に待ったをかけたと読むこともできます。
ソニーの金融事業としては、ソニー生命以外に、ソニー損害保険、ソニー銀行、ソニーファイナンスインターナショナル、マネックス証券というように直接・間接問わず様々な形で金融事業を行っておりますが、特に最近はソニー銀行やマネックス証券に代表されるネットを中心とした金融ビジネスにシフトしており(ソニーファイナンスインターナショナルも電子マネーの“Edy”などネット向け商品に注力しています)、今回の売却騒動も表向きは、「ネット事業への集中のため、該当しない事業は切り離していく」という内容のコメントが発表されております。確かにたとえ現在収益が上がっていたとしても、目指すべき事業ドメインと合致しないのであれば、事業を売却しその売却益で新たな投資を行うというのは、合理的な判断と言えます。しかしながら一方で、そもそもソニーが金融ビジネスを手掛ける意味というのは、一体どこにあるのでしょうか。
ソニーのようなメーカーが、金融子会社を持つことは別にめずらしくないのですが、現に今回の売却候補先の一つであるGEもメーカーですし、日本でも日立が日立キャピタル、東芝が東芝ファイナンスというように、多くのメーカーで自社グループ内にファイナンス会社を持っています。多くの場合、法人向けのリース・レンタルサービス、個人向けのローンやクレジットカードサービスというのが主流です。したがって、ソニーのように通常のファイナンス会社以外にも銀行や証券会社といった幅広い金融サービスを手掛けるのは、極めて珍しいことと言えます。
では、ソニーが銀行や証券会社といったある意味“畑違い”のビジネスを手掛けるのは、一体どういう意味があるのでしょうか。もし自社グループの資金調達や決済のために銀行や証券会社を持つとしたら、現在のソニーの信用力から考えれば、あまり意味のあることとは思えません。また逆に、ソニーの商品を購入する個人ユーザーに対してのサービスだとしても、既に持っている銀行や証券の口座からあえて乗り換えるでしょうか。金融商品というのは、言うまでもなく、リスクとリターンのトレードオフでしかありえません。したがってリスクとリターンの見極めができなければ、同じような商品でひたすらコスト競争に陥るのが常であり、ソニーの金融ビジネスにおいても全く同様のことが言えます。ソニーが決して得意とは言えない金融ビジネスの世界で、ソニーがいつものように“Sony Style”を発揮するのは、なかなか難しいのかもしれません。
今回のソニー生命売却騒動。実は、ソニー生命に限ったことではなく、ソニー全体の金融戦略が一つの方向転換を求められていることの現れなのかもしれません。
玉木真人
提供:株式会社FP総研