アナリストの独立性を巡る“日米格差”が広がる気配をみせている。米国では、所属証券会社の投資銀行業務に有利となるリポートを発行したアナリストが糾弾され、アナリストの独立性・情報開示を高めようとの機運が強まっている。一方、日本では、政府保有株の放出に絡み、当局自らがアナリストに圧力をかけているとの観測が急浮上。拡大する日米差に、内外投資家からのため息も・・・。
●拡大必至の「情報開示要求」
前週18日、米大手証券のメリルリンチが興味深い発表を行った。同社はアナリストが投資判断を発表した企業と、自社の投資銀行業務部門との関係を公表することでニューヨーク司法当局と合意したことを明らかにしたのだ。かねて問題視されてきた投資銀行部門(M&Aの仲介や社債発行を担当)と調査部門のアナリストの結託、不当な株価形成がまかり通ってきたとの不信感を払しょくするのが狙いだ。
株式の売買収入以上に、投資銀行部門が上げる利益が収益の柱となっている外資系大手証券にあっては、「M&Aや社債発行時にアナリストもバンカー(投資銀行部門)と同一のチームに入り、“適正株価”を弾き出すのが当然」(米系証券)とされてきた。だが、この流れがメリルの決断によって覆されるのが決定的となった。米国では、アナリストの独立性確保と情報開示の流れが今後、必然的に強まることになる。
●辛口アナリスト、突然の路線転換
一方、日本では4月10日に一部米系大手証券の銀行アナリストが発行したリポートが市場関係者の話題をさらった。同アナリストは過去数年間に渡って日本の金融システムの脆弱さを訴え続け「当局不信を煽った張本人」(財務相筋)として知られてきた。
その人物が同日を境に突然、路線転換したのだ。リポートでは、大手銀行グループの株価に20%超の上昇余地があると強調。唐突な“ご託宣”に銀行株は軒並み高を演じた。また同じ時期、別の米系証券の辛口ストラテジストも路線を変え、日本株に極めてポジティブな見解を表明。「米系大手2社のリポートを機に、海外機関投資家の買いが増え始めた」(銀行系証券)とされ、相場が下支えされたのは間違いない。
●つきまとう「圧力」観測
両者の突然の変節について、市場では「政府保有株の放出に絡み、主幹事獲得のために圧力がかかった」(準大手証券)との見方が定説となっている。今年度半ば以降、JT<2914>を筆頭にJR各社、NTT<9432>など政府保有株の売却が順次予定され、「内外大手証券が主幹事獲得に向けて熾烈な営業合戦を繰り広げている」(同)ためだ。
当該のアナリストとストラテジストの所属する会社も例外ではなく、「政府の機嫌を損ねまいと、投資銀行部門が調査部門に圧力をかけたとみるのが自然」(欧州系運用会社)。政府保有株の放出に絡んでは、「主幹事指名の前段階で、売りの実績が多い企業と、アナリストが批判的な証券会社は間違いなく排除される」(欧州系証券)だけに、変節も当然というわけだ。
自浄作用が効き始めた米国、当局自体に圧力観測がつきまとう日本。その差はいつ縮まるのだろうか―。
(相場 英雄)
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