けさ発表された3月の貿易統計では、輸出主導の景気回復のシナリオが再確認される形となった。米国向けの輸出が自動車輸出を中心に好調なのに加え、アジア向けの輸出も大幅に伸びている。一方輸入は減少が続いており、日本経済の回復はますます外需に頼らざるを得なくなってきた、との声もきかれる。今後の景気回復は、輸出の回復を受けた内需の回復が焦点となる、との見方も出ている。
3月の輸出は前年比マイナス3.1%。ロイター通信の事前予測調査の中央値、同マイナス2.7%からはやや下ぶれたが、ほぼコンセンサス通りの結果となった。前月比の季節調整値でみると、3カ月連続で増加している。今回の数字を受けて専門家の間では、「輸出の回復が確認できた」(BNPパリバ証券のエコノミスト、村上尚己氏)と、輸出の回復が軌道に乗ったことを確信する声が相次いでいる。同証券のエコノミスト、加藤あずさ氏によると、「輸出は世界的な景気回復を背景に昨年10−12月には底を打ち、1−3月からは回復が始まったといえる」という。ドイツ証券のシニアエコノミスト、森田長太郎氏は、1−3月期の輸出を“V字型回復”と表現している。
同氏によると、輸出の“V字型回復”にもっとも貢献したのは対アジア輸出。3月のアジア向けの輸出は金額ベースでは前年比微増だが、数量ベースでみると同プラス9.6%とプラスに転じており、1―3月期合計では前期比プラス15%近い伸びとなっている。バークレイズキャピタル証券のチーフエコノミスト、山崎衛氏は、「他地域に先駆けてアジア地域への輸出が回復基調にあり、世界経済の中でアジアの景気回復が先行している」としている。東京三菱証券のチーフアナリスト、深谷幸司氏は、「米国などの需要回復を受けたアジア諸国の景気回復を受けて、日本経済も回復していく」とみている。
また、ここ数カ月間輸出を引っ張っていた米国向けの自動車輸出は相変わらず好調で、3月もプラス35.8%と順調に伸びている。自動車の大量輸出のきっかけは、米テロ事件による消費の落ち込みを懸念して米国が自動車のゼロ金利政策を打ち出したことだが、2001年度でみても対米自動車輸出は前年度比プラス13%近くとなった。日本の最大輸出国である米国は、「消費を中心に回復傾向にあることがうかがえる」(バークレイズキャピタルの山崎氏)との声が多くきかれる。
一方3月の輸入は前年比マイナス12.7%と、「予想以上に下ぶれた」(ドイツ証券のエコノミスト、飯田美奈子氏他)との声が多い。内訳をみると、IT(情報技術)関連に加えて暖冬で原粗油や石油製品が大きくマイナスに寄与している。バークレイズキャピタル証券の山崎氏は、「原油価格の低下と機械などの落ち込みが大きく、全般的に輸入で伸びているものがない。日本の景気回復が遅れていることを示している」と説明している。
こうした動きを受けて専門家からは、“外需依存の景気回復”シナリオを確認したとの声が多くきかれるが、裏を返せば、「輸出意外に頼れるものがない」(ドイツ証券の飯田氏)ということになる。景気回復に向けて、外需の強さが単純に景気回復につながるには内需が弱すぎる、との声もきかれる。
あおぞら銀行のシニアエコノミスト、清水康和氏は、「今の輸出は、日本経済を支えるクモの糸のようなもの。ただ糸は一本だけだが相当太く、この輸出の回復にはかなり期待を込めて良いだろう」という。ただ、「輸出が伸びたところで、それが内需、特に設備投資などの民需に火がつくのかどうかが問題」として、当初見込んでいたように年央に景気回復が始まる、との見通しを変えるまでには至らないという。
バークレイズキャピタル証券では、「米国景気の回復傾向、米国景気にけん引されて世界経済の回復傾向が続く一方、日本では内需の落ち込みのために、景気回復が世界経済に遅れる状態が続く」として、貿易黒字は年を通じて拡大傾向にある、と予想している。