●すべて中途半端な小泉政権1年
小泉政権の誕生から1年が経過した。よくもったという言い方もあろうし、この程度かという半ば落胆した見方もあろう。最新の内閣支持率は40.8%(時事通信19日発表)と、最盛期から30〜40ポイントも下落し、危険水域突入寸前だ。首相は「聖域なき構造改革」を掲げ、国民に「痛み」に耐えるよう求める一方、自民党がこの方針に反すれば「私が党をぶっ壊す」と絶叫したあの勢いはどこへやら。後見人をして「結果的に妥協しているといわれても仕方がない。巧みな政治家になりつつある」(松野頼三氏)と言わしめる体たらくだ。
景気こそ底を打った感があるものの、これとて何らかの積極的な施策の結果ではない。人事も「一内閣一閣僚」という自らの公約に拘泥し、柔軟さを失っている。首相の生命線とも言える構造改革のうち、「道路と郵政」という2つの目玉では、役所を含めた抵抗勢力の反対はすさまじく、道路4公団民営化のための第三者委員会の人選が不透明。郵便事業への民間参入についても郵政族と総務庁一体となったサボタージュに手を焼いている。こうした動きはすべて内閣支持率が下がったことに連動している。つまり彼らは落ち目になった首相の足元を見ているわけだ。今からでも遅くないから、一刻も早く中期的な政策目標を掲げた青写真を示し、自らの所信を国民に直接訴え掛けるべきだ。未だにいかにも軽いパフォーマンスで国民受けを狙っているようでは、政権存続すら容易ではないだろう。
●「政治とカネ」、解決策は政権交代だけか
時事世論調査のうち問題なのは、内閣とともに自民党への支持率が19.6%と森政権末期の2001年2月以来初めて20%を割り込んだことだ。秘書給与など「政治とカネ」をめぐるスキャンダルはついに参院議長の辞職にまで発展したが、この政治不信の極みが28日投票の和歌山と新潟での衆参補欠選挙に影響を与えないわけがない。自民党支持率はその頃さらに下がっているであろうし、補選2連敗の可能性は高まったとさえ言えよう。首相らは「政治とカネ」の問題について、あっせん利得処罰法改正で対処しようとしているが、本当にそういう小手先の改革で済むのかどうか。しょせんは政権交代や政界再編など現体制を根本的に変えなければ、結局は何も変わらない、そんな気もする。それほど現在起きている政治家とカネをめぐる問題は根が深い。
●田中前外相は疑惑に答えよ
田中真紀子前外相の秘書給与をめぐるピンはね疑惑に至っては、問題を指摘されたからと言って居直るのは言語道断以外の何物でもない。同氏は週刊誌が報じたことだけで、党政治倫理審査会に掛けるのはけしからんと小泉首相らに逆ネジを食わせているが、本当に疑惑がないのなら、証拠を示し、この週刊誌を名誉毀損で訴えれば済むことだ。それが仮にも疑惑をかけられた公人の身の処仕方であろう。しかし報道を見る限り、田中氏の行っていることは詐欺罪で逮捕され、実刑判決を受けた民主党の山本譲司元衆院議員や議員辞職した社民党の辻元清美前政審会長と何ら変わりはない。
それどころか、秘書給与を自らが実質的なオーナーを勤める企業にいったん納めさせ、その一部だけを環流するという手口は一層悪質とさえ言える。田中氏は以前から何かことがあると四の五のと言い訳するケースが多いが、ここできちっと説明できないようでは、政治生命にもかかわろう。同氏が首相らに投げ掛けた「隗より始めよ」という言葉は、そっくりそのまま自分に戻ってくることを知るべきだろう。
●石原氏「政権取り」へしゅん動
「ポスト小泉」の候補として、自民党の麻生太郎政調会長や平沼赳夫経済産業相、高村正彦元外相、古賀誠前幹事長ら当選7回生4人組の名前が最近よく取りざたされるが、しばらく前、中曽根康弘元首相が塩川正十郎財務相の名前を挙げたことが永田町で驚きを持って受け取られている。中曽根氏の推薦理由は「反対する者がいない」「自分より年下」というものだそうだが、それにしても言いも言ったりである。中曽根氏の“老害”ぶりはかねてからつとに有名だが、ここまでくればとんだお笑い草だろう。
それよりも石原慎太郎都知事の最近の言動の活発さはやはり瞠目に値する。同氏は21日、民放各局に出演し「政権取り」の可能性について「ケセラセラ。奇襲攻撃をすると言って、奇襲する馬鹿はいない」(フジTV)などの発言は意欲の表れとして注目してよいだろう。同日のTV出演はテレビ局側の要望が先にあってのものだろうが、この日に集中的に出演したのはもちろん石原氏の判断だろう。その席で国政への意欲を語ってみせるのは何らかの計算があってのこととみるのは至極当然だ。
ちなみに子息の石原伸晃行革担当相が前日の記者会見で「最近、父親が新党を作ると言っている」ことを明らかにしたのも単なる偶然とは思えない。慎太郎氏は「息子にそんなこと言ったことがない」と全面否定してみせたが、都知事選の直前も噂を煽るだけ煽って、本人が最後に出てくるという手法を用いており、今回も同じである慨然性は非常に高いと言ってよい。小泉首相の人気が下がれば石原氏がうごめき出すというこれまでのパターンからすれば、今はまさにその時期なのだろう。
●思いきった減税策で今こそ本格的な景気回復を
日本の景気回復については、経営者の9割が「底を打った」との認識を示しているが、ワシントンで開かれた主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)などでは、依然、日本に対し、不良債権処理の遅れなどによる世界経済への悪影響が懸念されている。そこで景気回復の具体的手立てだが、前にも触れたように、迂(う)遠ではあっても消費者が買いたい物を作り、売るという地道な内需拡大策しかないのではないか。航空業界は各種値引きでほぼ満席が続いており、温泉地やディズニーランド、ユニバーサルスタジオ・ジャパンは客で一杯、デパートも高級品から先に売れていると前にも書いた。しからば、今度は住宅建設など大型消費に向かわせるにはどうしたらいいか。サラリーマン給与の頭打ちないしは漸次削減の状況から言って、残る策は減税しかないのは誰が見てもそうだろう。所得税減税でいくのか、住宅取得控除の特例でいくのか、はたまた相続税減税でいくのかなどの技術論は検討の余地があろう。
いずれにせよ、何らかのインセンティブさえあれば、庶民は必ず安くなった住宅取得に回る。塩川正十郎財務相もワシントンでの記者会見で「減税先行もあり得る」ことを遅まきながら言ったそうだが、「増減税中立」などと財務省の原則論を聞いて近年、景気が良くなった例はない。景気に少しでも上向きの徴候が出て来た今、思いきった減税策を打ち出すべきだろう。小泉首相も財務省出身の秘書官の手の内で踊っているようでは、本物の景気回復など望むべくもない。
(政治アナリスト 北 光一)