国際通貨基金(IMF)は、18日に公表した「世界経済見通し」のなかで日本経済に対して強い懸念を示し、補正予算編成や不良債権処理のための公的資金注入などを求めた。これに対し、経済閣僚は反発。塩川財務相は、「内政干渉だ」と述べ、強い不快感を示した。
IMFは、2002年の日本の経済成長率は─1.0%、2003年は+0.8%と予想。そのうえで、日本は世界経済にとって「深刻な懸念材料」だとし、日本の見通しは、「引き続き困難だ」と指摘した。また、日本に対しては、補正予算編成や一段の金融緩和などの政策対応を求めた。
塩川財務相は、19日の閣議後の会見のなかで、「最近、IMFや世界のエコノミストの日本に対する発言で、意外な表現が使われている」と述べ、それに対して反論を行った。
IMFが日本経済を「深刻な懸念材料」とした点については、「日本の対応は遅れてきたことは事実だが、ファンダメンタルズは大きく変化していない。持続的な回復の兆候も、そう希望なきにもあらずだ。日本経済は底打ちが言われ、これから反発してくる。企業が活発に経済活動することが、日本にとっての何よりの景気対策だ。将来、希望を持って見て欲しい」と述べた。
特別検査を踏まえても、大手行の自己資本比率は10%台半ばを維持するため、政府部内では、「現時点で、金融機関への公的資金注入は必要ない」との認識で一致している。G7でも、この点を説明しようとしていたが、IMFは、特別検査にも注文を付けている。
先に、日本国債を格下げしたスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)も、構造改革の遅れと共に、格下げの理由の一つとして、「12日に金融庁が発表した特別検査報告は、範囲と是正措置案が限定的であり、失望を誘う内容だった」という点を挙げ、「金融システムには、何らかの介入後、株主、もしくは政府による一段の資本注入が必要とされる。適切な資本増強が行われない場合は、金融セクターは与信拡大を渋るようになり、その結果、経済成長が損なわれ、金融政策の効果を鈍くする」と指摘している。
塩川財務相は、この点に関し、「特別検査は公正な検査であり、銀行は重く受け止め、銀行自身が、会社整理の方向などを明示するべきだ。これを怠っているのは、銀行の怠慢だ。銀行が積極的に整理していく方向に重大な関心を持っている」としたうえで、「銀行が不良企業の整理にどのように関与してきたかを絶えず観察する体制を取ることを、あわせてやっている。不良資産の解消は、順次正常化する」との見通しを示し、反論した。
さらに、IMFの世界経済見通しでは、補正予算編成を求めている。竹中経済財政担当相は、「日本の経済が循環的に良くなる段階で、補正予算の話が出ている。これは、どう考えても、ピントがズレている。プロフェッショナルな診断とは思えない」と述べた。塩川財務相も、「直ちに補正予算を組めというのは、財政の緊縮化を図り、国債発行を抑えろという世論に矛盾する」と述べ、「内政干渉だ」と不快感を示した。
塩川財務相は、経済財政諮問会議に提出した「6月の取りまとめに向けた3原則」(塩川3原則)のなかで、成長分野に国の政策を集中させることを提案。「6月の税制改正を通じた新しい産業展望を政府が出すといっており、その方向性をみたうえで、日本の経済活性化がいかに進むかを判断してもらいたい」と述べた。
塩川財務相は、これらの点について週末の7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で説明するとしており、小泉首相に対しても、そう伝えたという。
これら、閣僚の反発に対して、エコノミストからは、IMFの指摘に評価の声が出ている。みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、「抜本的な改革を90年代に怠ってきたから日本経済の低迷が続いたというIMFの指摘はポイントを突いている。また、まもなく発足1周年を迎える小泉内閣の構造改革が、期待ほどの成果を挙げていないという見方は、世の中の多数説であろう」としたうえで、「IMFが具体的に提言している政策には賛成できないが、循環的な景気底入れの兆しで政府の改革気運が緩んでしまうことに対する警告として、今回のIMF見通しがワークすることが望まれる」としている。