日本国債への“信用力”が揺らいでいる。このところ、S&Pやムーディーズといった外資系格付け会社からの格下げが相次ぐなか、かつて最高格付けである“AAA”を誇った日本国債も、“A”格への転落を懸念されるようになっている。そうした状況下、国内格付け会社である、格付け投資情報センター(R&I)においては、依然として“AAA”格を維持していることもあり、R&Iの出方に注目が集まっている。折りしも、R&Iが、“AAA”格の一般債につき、相次いで格下げを発表したことから、日本国債の格下げへの地ならし、とする見方が浮上している。
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が15日、日本国債の格付けを“AA”から“AAマイナス”に一段引き下げると発表。2月の段階で、“Aa3”を格下げ方向で見直すと発表している米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービス(ムーディーズ)と合わせ、海外格付け会社からは、日本国債の格付けに対しては厳しい評価が下されている。
一方で、国内格付け会社であるR&Iは、日本ソブリンを最高格付けである“AAA”と評価しているが、このところ“AAA”格の一般債の一角で格付けが引き下げられる動きが続いており、市場関係者の間からは、日本国債の格下げへの予兆や地ならし、といった声が聞かれ始めている。
実際、R&Iは、12日に“AAA”格の電力7社を“AA+”に1ノッチ引き下げたほか、17日には、“AAA”格のイトーヨーカ堂<8264>を同じく“AA+”に引き下げた。さらに、5日には、“AAA”格の東日本旅客鉄道<9020>を、格下げ方向でレーティング・モニターに指定している。
この点について、ドイツ証券・シニアクレジットアナリストの後藤英樹氏は、「“AAA”格企業の格下げや、格下げ方向での見直しが相次いでいるが、格付けについての調整色が強まっている印象だ。ソブリン格付けを格下げする地ならしをしているとも受け止められる」と述べ、日本国債の格下げの可能性が高まっていると指摘する。
同様に、東京三菱証券・投資戦略部チーフクレジットアナリストの三島拓哉氏は、「事前に一般債の格下げを引き下げ、地ならしをしているとの見方もできる。実際、投資家からは、国債格下げの予兆だとする声が多い」と述べたうえで、S&Pでも“AAA”格を維持するトヨタ自動車<7203>の格付け動向に注目する。
三島氏は、「電力会社やイトーヨーカ堂に続き、トヨタ自動車までもが格下げされるような展開になれば、ほぼ日本国債の格下げは決まりになるだろう」と述べる。
なお、トヨタ自動車とのからみでは、「S&Pの格付けでは、トヨタ自動車は、既に日本国債を上回る格付けを取得しており、格付け上の逆転は生じている。このため、R&Iにおいても、トヨタ自動車を“AAA”に維持したまま、日本国債の格付けだけ下げることも十分に考えられる」(ドイツ証券・後藤氏)との見方も示されている。
こうした一般債の格付けと、ソブリン格付けとの関連について、R&I格付本部の関係者からは、「業種それぞれのリスクが高まったことから、一般債の格付けを下げた訳でありソブリンのリスクと一般債のリスクが連動するということではない。マクロ的には、日本という国に位置する以上、国債も一般債もリスクが共通することはあるが、あくまでも個別要因で格付けは行っている」との考え方が示されている。
実際の日本国債格下げの可能性については、公募地方債を発行している28地方自治体のOP格付けが、すべて据え置かれたばかりであることから、否定的な見方もあるが、仮に国債が格下げされた場合の影響について、市場では、「国内投資家の、国内クレジット物投資における、国を最高位に位置づける“ヒエラルキー”が変化することはない」(ドイツ証券・後藤氏)との声や、「徴税権など例にあげられるが、やはり一国のなかで政府の信用が一番高いといえる」(東京三菱証券・三島氏)との声が聞かれ、影響はないとの見方でほぼ一致する。
実際、一般債の流通市場では、既にS&P格付けにおいて日本国債を上回るトヨタ自動車債の利回りは、T(国債)+αbpで推移、T−αbpでは取引されていない。