先週発売の「ニューズウイーク日本版4・17」は、「国際情勢入門」《世界の仕組みを知るための基礎講座》という特集を組んでいる。
そのなかに、『小泉とゴルビーを結ぶ線』〈サッチャャー的「再生の担い手」ではなく、「旧体制の幕引き役」になるのかも〉というコーナーがある。
ジョージ・ウェアフリッツというニューズウイークの東京支局長が書いたものである。
全部の引用はマズイ(面倒な)ので、一部抜粋する。
P.50
「小泉純一郎首相の決まり文句は、マーガレット・サッチャー元英首相とそっくりだ。就任以来1年近く、彼は「痛みなくして改革なし」という言葉を繰り返してきた。失業率の上昇、工業生産の減少、戦後最悪のデフレと、今のところ、「痛み」だけは約束どおりだ。
<中略>
小泉が似ているのはサッチャーではなく、むしろミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領ではないか。2人にはよく似た点がいくつもある。
<中略>
ゴルバチョフはソ連崩壊を招いた人物として、歴史に名を残すだろう。小泉も旧体制の幕引き役を運命づけられている、というのは飛躍しすぎだろうか。
<中略>
1940年前後につくられた戦時経済体制が、戦後は政府主導の産業モデルとして、日本の「奇跡の成長」を支えた指摘する専門家は少なくない。そのシステムが「今では日本を破滅寸前に追い込んでいる」と彼は言う。
<中略>
「いずれにせよ、自民党は1940年体制とともに滅びそうだ」と、オーバーホルトは指摘する。「どちらをつぶすことも、小泉は恐れていないように思える」
確かに豪胆さはサッチャー並みかもしれないが。だが、修復不能なシステムの崩壊を招く点では、ゴルバチョフそのものだ。
」
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● ゴルバチョフ氏に対する評価
まず、ソ連については、良い体制だったとも、社会主義だとか共産主義だったとも捉えていない。
ソ連は、戦時共産主義的国家運営思想に基づく「国家資本制」だったと考えている。
国家資本制は資本制(資本主義経済システム)の一つの形態であり、中国もそのような道を歩んできたが、統治形態をそのまま維持しながら私的資本制に移行しつつある。
ソ連を崩壊させたゴルバチョフ氏については、意識的な「自国破壊者」だと評価している。(穏便に“大バカ者”だったという評価もできるがそれは失礼だろう)
ゴルバチョフ氏やエリツェン氏がまともな統治者であれば、ソ連体制を解体させるとしても、あのようなドラスティックな崩壊ではなく、経済システムを維持しながら政治的改革を行い、その後で、経済システムの改革を徐々に行うという手順の解体を行ったはずである。
“無秩序の崩壊”のなかで、旧ソ連共産党幹部が生産設備や資源などが私物化され、経済全体が疲弊していった。
ソ連崩壊後98年まで、経済成長はマイナスを続け、ソ連時代の90年に比べ鉱工業生産は半分以下になった。そして、今なお、教員・公務員・炭鉱労働者・兵士などは、給与の不払いや遅配という被害を被っている。
ゴルバチョフ氏は、混乱期に新たに登場した革命家ではなく、ソ連体制のなかで着実に階段を上って権力を掌握した統治者である。エリツェン氏も、モスクワ市長やソ連共産党政治局員候補と権力の階段を上った主要統治者である。(80年代末から90年初めに見られた2人のシンクロというかアシンクロはなかなかのものだったが...エリツェン氏が過激改革派を演じ、ゴルバチョフ氏が穏健改革派を演じるというもの)
「レーガン政権」がソ連崩壊を導いたという考え方もされているが、ソ連崩壊は、ソ連圏以外に初めて軍隊を出動させた「アフガニスタン軍事介入」を端緒とし、ゴルバチョフ氏のペレストロイカでイデオロギー的な準備が進められ、「チェルノブイリ原発事故」がだめ押しになって起こったと考えている。
そのような条件を“活用”しながら、“主体的”にソ連を崩壊させていったのが、ゴルバチョフ氏でありエリツェン氏である。
ソ連崩壊の直接的な引き金となった91年の“副大統領派のクーデタ”も、ゴルバチョフ氏が知っていた上での茶番だと思っている。
それが誰のためのものだったかはおくとして、このようなことから、ゴルバチョフ氏とエリツェン氏は「自国破壊者」だったと考えている。
小泉首相が、無自覚か意識的かは別として、「自国破壊者」の道を進まないよう願っている。