ペイオブ解禁の四月一日、柳沢金融担当相はご満悦な様子でインタビューに答えていた。「三月危機は起こらなかった。金融機関は健全である」と。確かに、二月六日を最安値に株式市場は反騰し金融機関の決算越えはできた。しかし、その相場反騰のきっかけは、悪評高い「空売り規制」強化によるものであった。不良債権問題は先送りされ、デフレ対策も中途半端なままである。
この市場規制には各所から批判の声が上がっそいる。元経済企画庁長官の堺屋大一氏もこの規制には反対の意見を述べている。相場下落の際には、付け焼き刃的な規制強化に非難が集中することになりそうだ。
ともかく、株式相場は反騰した。この上昇を分析してみると、ファンダメンタルズからは在庫調整の進展と米国景気の持ち直しによる輸出回復期待が考えられる。が、真の理由は「空売り規制」をきっかけに、買い戻しを誘ったに過ぎないのである。皆が買い戻すから相場が反転する。だから買い戻すという集団心理が働いたのだ。決して売れなくなったわけではない。とある外資系証券のトレーダーは言う。「(規制が強化されたからといって)売りから入れないということはない。借用取引では何の規制も無い」と。
このように貸し株を借りての空売りは確かにやりにくくなったが、信用取引を使っての空売りは自由自在なのである。前述のトレーダーは続ける。「まず、信用取引で売り叩く。翌日貸し株を借りてきて現渡しをする。そうすれば、まったく何題ない」。
その気になれば信用取引を使える。さすがの金融担当相も個人の取引手段である信用取引までは同じようには手をつけにくいはずである。貸借料の値上げを強制するという政府の干渉は入ったものの、取引方法までは個人も含めた信用取引には規制できまい。
さらに、「米国景気に期待し過ぎた。政府支出は一過性のものだ。個人消費は堅調なものの、ゼロ金利キャンペーンなどに支えられただけで、所得環境が悪化する中での景気牽引役にはなれない。設備投資は最悪のまま。従って、米国殊につられて反騰した日本のハイテク株は割高である」とその外資系トレーダーは言い切った。
彼は既に日本のハイテク株を高値で空売りしているはずだ。ただし、割高な株式を売ると同時に割安な株式ほ買っているのである。
売りだけを悪と見る考え方では市場は成り立たないことを政府関係者の人に理解してもらいたいものである。
市場にとっての命は、流動性である。流動性がなくなった市場では誰も取引しなくなる。日本の金融市場の空洞化こそ避けなければならない最大の課題ではないだろうか。