前週末12日、金融庁は大手銀行の大口融資先の査定状況を検証した「特別検査」の結果を発表した。大方の予想通り、大手銀行で国際業務銀行の目安となる自己資本比率8%を下回るところはなく、「破たん懸念先」以下に見直しを迫られた企業数も34社にとどまるなど、同庁と金融界の“予定調和”どおりコトが進んだ。政府は今週末に米国ワシントンで開催される先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の場で、いよいよ「安全宣言」を発する構えだが、各国当局者や国際金融市場で失笑を買うのは必至だ。
●柳沢大臣の安全宣言
特別検査の結果発表後、柳沢伯夫金融担当相はこう強調した。「(不良債権残高は)2004年には下がっていくと見通している。不良債権処理の展望を国際社会にも説明したい」―。この発言は、週末に開催されるG7で、日本政府が金融安全宣言を行うことを意味する。
財務省の中枢を軸に、政府は今年2月中旬から「バブル経済の処理は終了した」「金融システムは早期に安定局面に入る」などの文言を練り、安全宣言の幹に据えようと準備を整えてきた。これがようやくG7の場で日の目を見るわけだ。同会議に出席する塩川正十郎財務相は、「もう、日本の銀行は安心でっせ」とでも説明するのだろう。
ただ、今回示された特別検査の結果は、巨額の過剰債務を抱え、再建もままならない問題企業が多数生き残っていることが示すように、「状況は何も変わっていない」(欧州系証券アナリスト)と何ら市場の評価は得られていないのだ。
同庁が結果発表と合わせて示した追加策である「より強固な金融システムの構築に向けた施策」についても同様だ。同施策の中で目玉と位置づけられた新規発生分の不良債権処理の年限目標にしても「既存の不良債権という根っ子がどうなるものでもない」(米系証券)と冷淡に受け止められ、国際的な信認を得たとは言い難い。
●薄氷の上のロジック
特別検査の結果と、追加施策の双方が市場の評価を得ていないのは、「そもそものロジックに無理がある」(銀行系証券)ところに原因がある。大口の不良債権が根本解決を先送りされたうえに、政府が安全宣言の拠り所としている将来の不良債権残高の減少見通しにしても、柳沢金融担当相がいみじくも指摘したように「経済環境が予想されているものであれば」という前提条件付きだ。
「デフレの進行がいつ止まるか誰も分からない状態が当分続く」(日銀幹部)のは誰の目からも明らかであり、追加施策の数値目標も「実現できるかは全くの未知数」(同)と言える。
市場関係者だけでなく、海外の金融当局者も同様の見解をもっている。大甘の経済見通しと予定調和の上に成り立った検査結果と追加安定策。政府が国際社会に発する安全宣言が、「市場の信認をさらに低下させることにならなければ良いが」(欧州系運用会社幹部)との声が強まっている。
○URL
・金融庁「金融システム安定化追加施策」全容が明らかに〜地銀再編促進や融資厳格化
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200204/11/20020411115008_73.shtml
[相場英雄 2002/04/16 15:26]