今週の18日、成田暫定滑走路がいよいよ供用開始となるが、この前後に日本航空<9201>(JAL)と日本エアシステム<9203>(JAS)の経営統合について、公正取引委員会の結論が出る模様だ。両社の統合に公取委が「待った」をかけたのが3月中旬。その後、両社は羽田発着枠から往復20便を返上することで、公取委にボールを投げ返したようだが、「この枠が、統合メリットが出るギリギリの線」(業界関係者)と言われているだけに、これ以上の幹線枠を返上すると、破談する可能性が高まっていると言われている。特に、JALの幹部の間からは、「たとえ統合が壊れてもうちは失うものはない」「JASはそもそも単独ではあと1、2年もつかどうかで、当事者能力を失っている」と、開き直りや厳しい声も出はじめている。
●東急電鉄に余力なし
無論、エアラインはほかの産業と違って大手は3社体制という寡占業界だから、3社が2社に減るにあたり、JAL・JASも何らかの譲歩が必要になることは折込み済みだったはず。ただ、当初からライバルの全日本空輸<9202>(ANA)が公取委に上申書を提出して盛んに統合阻止にむけた牽制をしてきただけに、枠返上の上積みを強いられる可能性はある。
そうなった場合、JALはともかくJASの救済をどうするかが焦点となる。JASの親会社である東京急行電鉄<9005>グループは、JASを強力に支援する余力はなく、同じグループ会社でも「JASの場合は遠い親戚のようなもので、JASの人と話していてもグループという意識は希薄」(東急電鉄幹部)との声もある。が、こうした東急電鉄側の意識は、JASの今後を占ううえで重要になってくる。
破談になった場合、JASは独占禁止法上、ANAとは統合できないため、資本注入は外部企業という選択肢しかなくなるからだ。かつて、JASの救済には、西武鉄道<9002>やトヨタ自動車<7203>の名前が挙がっていたが、これは現実的でない。
●競合はしない?
関係者の一部で最近聞かれているのが、「JR、それもJR東日本<9020>が軸になっての救済」というもの。JRは、エアラインとは競合関係あるため一見、笑い話にも思えるが、子細に見ていくと実はそうでもない。さすがに、東海道新幹線を軸にしているJR東海<9022>は羽田〜伊丹線と熾烈な顧客争奪戦があるため無理だが、残るJR東日本、あるいは西日本<9021>は可能性を残している。
JR東日本は昨年末、新宿湘南ラインを開通させ、JASの親会社である東急電鉄とは競合関係にはあるが、前述したニュアンスから、東急電鉄側はいざとなればJASを完全にグループから切り離すこともあり得る。そうなれば、JR東日本との競合は解消される。また、同じ昨年末、JR東日本は羽田へのアクセスである東京モノレールを日立物流<9086>から買収している。仮にJASを傘下に収めることができればその効果は倍増する。しかも、JR東日本は年末の完全民営化を控え、モノレールのほか、オレンジページなど、矢継ぎ早に買収攻勢に出ており、将来の少子化経済に備え、鉄道依存経営を軽減する動きも急である。
●JR西日本との可能性
さらに、JR西日本については、本業のエアライン事業ではないもののJASの船曳寛真社長がJR西日本グループに「接触」した経緯もある。曰く、「3年ほど前、旅行会社の再編の話に出て、全国レベルの再編があった場合、うちと提携する余地はないかと話をしたことがあるのは事実。一時期は面白いとは思いましたけどね。ただ、JR西日本にうちの増資をお願いしたとかそういう事実はありませんよ」。
JR西日本との提携なら、幹線に鉄道網のない東急電鉄にも迷惑が掛からない。となると、最後は東急グループの腹次第だ。グループとしての効果があっても、JASを抱え込む余力が東急電鉄にはない以上、万が一統合が破談した場合、外部企業に株を売却する可能性は否定できない。東急電鉄がJAS株を保有するのは、あくまでもJALとの統合が前提だからだ。JAL、JAS、ANA3社を1社にする「大統合」の選択がない限り、破談した場合は東急電鉄が思い切った策に出る可能性があり、JASの行方は予断を許さない状況にある
(吉野 経)