NTTが電話網を10年後めどにIP電話へ全面移行とマスコミが報道。これを受けNTTの株価は下落。IP電話vs固定電話と見られがちだけれど、実はIP電話の登場はNTTにはプラス材料!
最近、マスコミからIP電話について問合せを多く受けます。実は、彼等の質問を受けるたびに感じることがあります。それは、彼等の多くが「固定電話を打ち砕くIP電話」と言う観点で話をされていることです。つまりはこうです。格安のIP電話の登場により従来の固定電話の利用が大きく減少する。それにより固定電話主体のNTT東西の収益が大きく落ち込む。従って、質問は「IP電話の拡大=NTT東西の衰退」と言う流れで行われる(=行いたい)傾向が高いように感じます。
また、先日の日経新聞に「ネット使った電話、NTT10年で全面移行 通話料は低下へ」という見出しが載りました。私はこの見出しを見て「10年もかかるのでは市場にネガティブに受取られかねない」と思ったのですが、市場は別の観点でネガティブに取りました。それは「通話料低下」の文言です。
以上のことから言えることは、IP電話登場の本質がどうも誤解されているのではないか、との疑問です。そもそも、IP電話とはIPを使ったデータ通信(特にブロードバンド)のアプリケーションの一つです。つまりは、アプリケーション不足が叫ばれているブロードバンドサービスの重要なキラーコンテンツの一つと言えるのです。
最近、IP電話の問合せがあると冒頭に以下のように述べるようにしています。「IP電話を考える場合“固定電話vsIP電話”ではなく“回線交換方式vsデータ(パケット)通信”と見るべきです。IP電話はデータ通信の一つのアプリケーションに過ぎないのであって、IP電話だけを抽出して固定電話と比較すると誤解を生じてしまうことが多いですよ…」。
通話料の低下についても誤解があるようです。IP電話は効率的な低コストのサービスなのですから、通話料は安くなって当然なのです。通話料低下を即、収益の低下と考えるのは早計と思われます。ポイントは低料金かつ低コストという条件で「サヤ」はどれだけ取れるのかと言うことだと思います。
NTT東西について言えば、人員が多く、設備過大であり、それらから生じる「効率性の悪さ」が問題なのですから、IP電話による「スリム化」は大いに歓迎すべきことだと考えます。大鑑巨砲主義で売上高は大きいが利益はあがらない、では通信株としては評価されません。零式艦上戦闘機(ゼロ戦)のように俊敏で小回りの効くスタイルが求められていると思われます。
そろそろ3ヵ年計画が発表されますが、巨艦が如何にして俊敏な戦闘機に生まれ変われるか注目していきたいと思います。
本文:(株)大和総研 シニアアナリスト 長谷部 潤
提供:株式会社FP総研