金融機関が住宅ローンで激しい顧客の争奪戦を繰り広げている。住宅金融公庫の廃止をにらみ、各行とも金利を大幅に引き下げ、年利1%の商品も登場。大手銀行には、ペイオフ解禁で大量流入してくる預金の運用先になっている。ただ、返済が滞る例は増えており、利用者は先々の金利上昇リスクを考える必要がありそうだ。(経済部・西尾能人、原光俊)
●「年1%」や「10年固定」も
「どのくらい借りられますか。必要条件は」
東京・丸の内の東京三菱銀行本店。昼時になると、住宅ローン窓口にはサラリーマンらがひっきりなしに訪れる。目当ては昨年12月から同行が始めた「ゼロ金利時代実感キャンペーン」だ。
当初3年間の金利は年1%に固定。その後の金利は変動するが、住宅ローン減税の対象となる人は、「3年間の実質的な金利負担がゼロ」というのがうたい文句だ。
3月末までの4カ月間で貸出額は5000億円近くにのぼり、00年度1年間の実績を上回った。担当者は「驚異的な数字」と手放しの喜びよう。受付期間は6月28日まで3カ月間延長した。
4大金融グループの住宅ローン残高は01年3月末で、現在の三井住友銀行が11兆7913億円で首位。現みずほ銀行11兆2552億円、現UFJ銀行7兆7048億円と続き、東京三菱は5兆8595億円。小口取引分野の規模で見劣り感があった東京三菱は今回のローンで他行に追いつく、とソロバンをはじく。
みずほ銀行も今月1日の発足を記念して、半年間のキャンペーンを始めた。システム障害でみそをつけたが、当初10年間の固定で3.15%。さらに年0.2%相当の保証料も免除し、店頭金利より実質0.7%幅低くなる。「今のローンが残額1000万円以上、返済期間10年以上で金利が1%以上高ければ、借り換えの検討を」と売り込む。三井住友やUFJも金利を優遇した最長10年固定のローンを販売中だ。
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中小金融機関も負けていない。
城南信用金庫(東京)は、昨秋から当初10年間の金利が年2.5%、11年目以降は年3.8%となる長期固定ローンを扱っている。信金中央金庫も、全国の信用金庫を通じ、最長35年の固定金利ローンを始めた。10年目まで2.65%、11年目から3.4%。ともに「公庫よりも低金利で有利」と胸を張る。
金融機関が住宅ローンに力を入れるのは、200兆円近い住宅ローン市場の4割弱を占める住宅金融公庫が5年以内に廃止され、市場が一気に広がるからだ。公庫の融資は今月から年収800万円以下の人は物件価格の8割、年収800万円を超える人は5割までしか借りられなくなった。
みずほの担当者は「長期間、利ざやが稼げる住宅ローンは一番の収益源。ペイオフで集まる預金の絶好の運用先にもなる」と話す。
●増える代位弁済
半面、景気の低迷に伴う失業や収入減でローンの支払いに苦しむ人も増えている。公庫ローンの返済を肩代わりする公庫住宅融資保証協会の00年度の代位弁済は1万7757件、2688億円。99年度に比べ、それぞれ16%、18%増えている。いすゞ自動車は今月からの賃金カットで、ローン返済がきつくなる社員向けに緊急の社内融資制度を設けた。
大手銀行はバブル期、土地保有者を対象にアパート建築融資などを積極的に進めた。結果的に焦げ付きが増え、返済を肩代わりする系列の保証会社の経営が悪化。多額の金融支援をしたばかり。
経済評論家の奥村宏氏は「企業側の資金需要が低迷し、銀行としては個人金融に出るしかないのは事実。しかし、問題は銀行の審査能力だ。むやみに住宅ローンを増やしていけば新たな不良債権となる恐れもある」と警告している。
住宅ローンの主な新製品
◆金利上昇にも注意を――ファイナンシャルプランナー、菱田雅生氏の話
銀行のローンでは一般的に、固定金利の特約期間が終われば、その時点の金利で固定にするか、変動金利に移行するかを選ぶことになる。今の超低金利がずっと続くわけではない。金利が上昇し始めたら、元金がなかなか減らないケースも出てくる。低金利を生かすためにできる限り長期固定で借りて早く返すのが原則。低金利に目を奪われて限度いっぱい借りるのは危険だ。