「足利銀行が北朝鮮向けの送金業務を全面的に停止したことで、邦銀の中でこの業務を扱う銀行は皆無、という状況になってしまった。このことが今後どのような影響をおよぼすのか、注視したい」(金融庁関係者)
4月10日、経営再建中の足利銀行は北朝鮮国籍の銀行7行と締結していたコルレス契約(送金契約)をすべて解消し、北朝鮮を対象とした外国為替業務から全面撤退した。
この結果、邦銀を窓口とする対北朝鮮送金ルートは、すべて閉じられることになったのである。
「北朝鮮向けの送金という点において、足利銀行は邦銀の中でも極めて特殊な存在だった、。本邦唯一の外国為替専門銀行だった旧東京銀行ですら、北朝鮮向けの送金については事実上取り扱ってこなかった。そうした点で足利銀行は非常に異色な銀行だった」(金融庁幹部)
そもそも足利銀行が、北朝鮮向け送金業務の取り扱いをスタートさせたのは、同行の営業地盤に在日朝鮮人が多数在住していたため、とされている。
とはいえ、足利銀行が手がけた送金実績は、まさに微々たるものだった。「足利銀行が北朝鮮向けに送金業務の取り扱いを始めたのは、1979年12月と意外に古いのです。それ以降、93年〜94年ごろまでは送金量は拡大傾向にありました。しかし、ここ近年−例えば98年度から2001年度にかけての送金実績は、件数ベースで1488件、金額ベースで約500万ドル程度にすぎなかったのです」(金融庁関係者)
数字を見る限り、足利銀行ルートを通じた北朝鮮向けの送金は、意外なほど少ない。
「こうした“送金”の大部分が、在日の朝鮮人が本国の親類縁者にあてたものです。しかも、10〜20万ドル程度の小口送金が大半なのです」(足利銀行幹部)
つまり、足利銀行が全面的に送金停止に踏みきったことによる影響は、それほど大きくない、と言えるだろう。
朝鮮総連関係者が言う。
「“足利銀行ルート”について言えば、その送金内容については逐一、監督官庁によってモニタリングされていたし、その情報はすべて日本の公安に流れていた。われわれにとっては、非常に使い勝手の悪い銀行だった」
とはいえ、この“足利銀行ルート”は、日本から北朝鮮に送金を行う上で唯一の合法的な送金ルートだった。改めて説明するまでもなく、北朝鮮系信用組合は外為業務が認められていないため、送金ルートとしては機能していない。
「実を言うと、ここ数年来、財務省、日銀、そして一部の民間銀行関係者の“有志”が集まる形で特別チームを編成し、北朝鮮への送金ルートの解明に努めてきたのです。しかしその成果は、あまり思わしくない、というのが実情なのです」(政府関係者)
ここへ来て有力な“送金ルート”として浮上してきた銀行がある。
「それは、日本国内に支店を持つ中国籍を有する銀行です。こうした銀行が重要な役割を果たしていることは間違いないが、われわれにとっては、まさにアンタッチャブルな存在なのです」(前述の政府関係者)
2002/4/12