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題名:No.518 中国人教授から見た日本
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From : ビル・トッテン
Subject : 中国人教授から見た日本
Number : OW518
Date : 2002年4月10日
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今回はこのOur Worldに何度も登場しているニューヨークのエコノミスト、マイケル・ハドソンの友人から送られた、同じくニューヨーク在住の中国人の大学教授、ヘンリー・ルーの書いた小論をお送りします。ルーの分析は、私やハドソンがこのOur Worldで示してきた見方と同調するものです。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。
(ビル・トッテン)
中国人教授から見た日本
ヘンリー・C・K・ルー
ウォール街はわざわざ日本を買い叩く必要はない。なぜなら「日本株式会社」はすでにウォール街に所有されているも同然だからである。戦後の日本はマッカーサーによって、アジアの共産主義、すなわち中国(米国には当時から中国が共産主義国であると映っていた)の封じ込め政策の要に据えられてきた。日本の政治体制が民主主義であるというのは名目上のことである。どこから見ても自民党は全体主義の政党である。初期の選挙で共産主義が恐るべき強さを示して以来、日本では、マッカーサー占領下の55年前に設立された自民党によって一党支配体制が維持されてきた。
経済的には、日本は米軍基地としての特徴を捨て去ることは決してなかった。サービス経済下で米国は、製造分野を海外に依存することで繁栄してきた。日本とドイツは低価格の自動車や電化製品の提供先として、また新興工業国はより労働集約型の製品の提供先として米国の繁栄に貢献してきた。
冷戦後の世界貿易体制では、金融資本主義のもとドル支配を中心とした構造が作られてきた。ここでは、ドルだけが準備通貨として使用できる。ドル支配とは簡単にいえば、米国によってドルが用意され、その他の国は、ドルで購入できるものを作るという体制である。したがって、米国の貿易相手国は、米国との貿易で黒字になったとしても受領する通貨はドルであり、そのドルはドル建て資産に投資する以外に使い道はない。すなわち他の国によって米国経済が資金的に支えられているということだ。逆に米国から見ると、貿易赤字ができたとしても、それは米国資本への投資として還流してくるため、それで米国経済の成長や国民生活の水準を向上させることができる。米国経済は文字通り借金で成長しているが、その借金は返済する必要のない借金である。なぜならば、その借金の融資先からすれば、借金は返してもらいたいが、米国経済を破綻させることはできないからである。
日本経済が病み始めたのは冷戦後の新自由グローバル化が根付き始めた1990年ごろだった。日本人の国民性から米国の戦略を模倣した結果、米国と同じように金融操作を利用して成長しようとし始めた時期である。貿易黒字の使い道として、日本企業は米国の資産や株式、不動産に投資することで、金融資産の富を増やし始めた。
日本に限らず、他のほとんどの国も気づいていないことは、米国のような立場は、誰もが享受できるものではなく、基軸通貨を持つ米国だけに与えられた特権だということである。自国の通貨で石油を購入できない国は、米国のように借金を踏み倒すことはできない。円をドルとまったく同じように使用することは不可能なのである。外為市場や石油のような基本物資の決済を円で行うことは不可能である。また1985年のプラザ合意によって、米国は対日貿易赤字を目減りさせるために日本に円の価値を上げるよう迫った。しかし、米国が、永久に貿易収支を赤字のまま維持できることに気づいたのは、すなわちドル支配でゲームを進めれば貿易赤字をいくら抱えていようがうまくやりおおせることに気づいたのは、ずっと後になってからである。
実際、米国の貿易赤字、すなわち他の国にとっての対米貿易黒字は、米国主導の金融や貿易のグローバル化に他の諸国を参加させるための撒餌だといえる。ただし、いかなる国も自国経済を成長させたいと考えれば、まずは米国経済を成長させるしかない。これに対抗しようとした日本は円建て融資や投資を通じてアジアを買い占めようと画策した。しかし1997年のアジアの金融危機によって、アジアに投じられた日本の富は、ヘッジファンドの助けもあってすべて米国に渡ってしまった。グリーンスパンはこれを「健全な出来事」と賞賛した。
日本の金融危機の原因はむしろ自己責任の問題にある。日本の銀行は貸し手であるばかりでなく、融資先の株式も多く所有している。こうした「株の持ち合い」が構造改革手段としての倒産の効果を下げている。その結果、米国よりも日本の方が債務超過の影響がはるかに深刻である。
日本の病いを治癒させるには大胆な政治改革を行うしかない。何よりもまず米国の覇権主義からの独立や自治が不可欠である。また輸出を通じて成長するやり方は機能しないことに気づかねばならない。たとえ日本であっても、貿易黒字分を「金」で決済することでもできない限り、輸出をすればするほど基本的に貧しくなるのである。
確かに、日本は米国からの独立を試みたこともあった。アジア通貨やアジア通貨基金、さらには、アジア自由貿易圏の設立を提唱し、中国はこれらの提案の中には有益なものもあることを認めた。しかし、日本国内の政治圧力から、日本は結局、いつもの円の切り下げという手段を講じた。しかし、円の価値を操作しても市場占有率は上がるかもしれないが、根本的な解決策にはならない。円の価値が1ドル150円より下に下がったとしても、それを相殺してしまうだけの通貨の切り下げが他のアジア諸国すべてで起こるだろうと中国は断言した。しかし。1980年当時、円は250円で取引されていたが、世界が内部崩壊するというようなことはなかった。
ある意味で、アジアの通貨危機を防ぐことはほぼ不可能なのかもしれない。しかし、それが起きたとしてもそれほど、悪いことではないかもしれない。現在の世界貿易体制が崩壊され、各国政府は国内消費分の生産に集中するよう貿易政策の見直しを迫られるだけだからである。今後2年間が重要である。