中東が危機的な状況になるなかで原油価格が高騰しているが、これは、デフレに喘ぐ日本経済や米国経済の救い主になるのだろうか。
現在、わかっている範囲で言えば、日本・米国・中国がデフレ状況に陥っている。
中国は、デフレ状況でも、第1四半期の個人消費が対前年比で8.5%伸び、デフレ分を考慮すると10%以上の伸びだという。経済成長を第一義に考え、今年度も7%以上の成長を“国是”としている中国は、大々的な財政支出でそれをサポートしている。
原油価格の上昇は輸入物価の上昇につながるが、相対的な通貨価値の変動である「円安」と違って、多くの国が同じように影響を受ける変動である。
原油価格の上昇が、ガソリンや化学製品の価格上昇につながるだけではなく、それらを通じて幅広い商品の価格を押し上げ、さらにエネルギーコストも上昇するので、全般的な価格上昇をより進める。
結論的に言うと、大多数の人たちの可処分所得を増大させない限り、デフレ不況にある日本を含めて、「原油価格の上昇は不況を悪化させる」ものである。
米国のガソリン価格は、ここ1ヶ月で3.5%ほど上昇しているという。その間可処分所得が変わらず、自動車を走行させる距離も変わっていなければ、余分に支払わなければならないガソリン代に見合うだけの節約を他の支出で行わなければならない。
その分、石油業界以外の売り上げが減少することになり、ただでさえ消費不況に陥っているのに、それに拍車が掛かることになる。
日本ではどうだろう。
日本のガソリン価格は、原油価格の上昇に逆らうかのように下落気味だという。過当競争で値上げしにくい環境ではあるが、原油価格が一定レベルを超えれば、やはり値上げに転じることになる。
石油を原料とする化学製品は、コストアップ分を販売価格に上乗せしようとするだろう。
電気料金も、一定レベルを超えると料金に転嫁できるようになっているので、料金の引き上げが行われるだろう。
このようなかたちで、コストプルによる価格上昇=インフレが生じると考えられる。
企業間の取引(卸売物価ベース)ではそのような価格上昇がスムーズに実現されると見ているが、消費者物価ベースではどうだろう。
日本を代表する日立までがベースダウンを行うほどだから、良く言って、勤労者の可処分所得増加は抑えられている。
ということは、支出可能額が変わらないのに消費者物価が上昇するということだから、個人個人の必要度や欲求度に応じて、購入商品の絞り込みが行われるようになる。
このような現実が供給側(企業)に認識されると、自分のところの商品はなんとかして売りたいと考えるので、コストがアップしたのに商品価格を据え置いたり、なかには値下げするようなことも起こりえる。
これは、企業利益の減少につながり、銀行の不良債権の増大にもつながりかねないことである。とりわけ価格支配力が劣る中小企業は、収益悪化に陥るだろう。
さらに言えば、流通業界は、売れる価格の商品を仕入れるため、中国製品により目を向けるようになり、メーカーも、生産拠点を持っているのなら、日本で生産していたものを中国で生産しようと考えるだろう。(生産拠点を持っていないメーカーは、生産拠点の移転を考えるかもしれない)
原油価格上昇の影響は、多くを国内産でまかなっている中国よりもほとんどを輸入に頼っている日本に対して強く働く。(中国は国家全体の成長を国是としているので国内産の国内向け原油価格の上昇を抑えるだろう)
これは、日中の製品価格差が、賃金水準の差以上に広がることを意味する。
製品輸入が拡大すれば、消費者物価はデフレが続き、国内産業がさらに苦境に陥ることになる。(現状の為替レートでも内外価格差で日本の方が高いのだから下落余地はある)
それは同時に、銀行の不良債権が増大する話でもある。
手をこまねいたままだと、日本経済は、輸入物価や卸売物価は上昇したのに、消費者物価は上昇しないで「デフレ不況」が続くという“歪んだ”結末を迎える可能性が高いのである。
以下は『【大間違いの経済理論】 “超低金利政策”はデフレを悪化させる 《金利引き上げがインフレを誘発し「デフレ不況」から脱却するための一つ方法》』( http://www.asyura.com/sora/dispute1/msg/302.html )からの抜粋だが、そのような状況に対応するには、次のような政策を実行する必要がある。
そして、小泉首相は、経済団体や大企業を訪れ、製品輸入の拡大にできるだけ走らないよう頭を下げるべきである。
「このような状況で商品価格を上げると、購買力がそれについてこれないという事態が発生する可能性が高い。
ただでさえ将来に不安を抱えている人が多いのだから、物価上昇がより深刻な“不況”を招くことになる。
それを防止するために、金利上昇政策と同時に、標準家庭で年収800万円未満の勤労者の所得税減税を実行する。年収が低い人ほどより多くの減税が行われるようにする。そして、それを国債発行でまかなうのではなく、800万円以上の所得者に対する増税でまかなう。
この所得税変更は、2年間だけでもいいし、高所得者がどうしてもイヤだというのなら1年間だけでもいい。
物価が上昇し、経済活動が活発になれば、来年にはベースアップが行われるであろう。
本当は、1年間だけでいいから、企業が借金をしてでも、本給の5%くらいの特別手当を支給するというかたちがベストである。
しかし、「総論賛成、各論反対」の企業経営者たちは、そのような“国益”=“企業益”に適う策を採らないだろう。
もう一つの心配は、物価上昇が国際競争力を低下させるのではないかということである。
これも、大企業は、国内では高く売り、輸出は安くするというこれまでの企業行動で乗り越えられる。
このような意味からも、金利上昇政策でデフレから脱却できるチャンスは、日本(企業)が「世界の工場」の役割を担っているあいだしかない。」