大手銀行株を保有している企業が、銀行株の株価下落で巨額の株式評価損を計上し、税引き後利益で巨額の赤字に転落するケースが相次いでいる。9日には新日本製鉄とコスモ石油が相次いで2002年3月期決算の税引き後利益が赤字に転落するとの見通しを発表したが、今後も銀行株の下落を主因とする業績修正が増えそうだ。
3月末の日経平均株価は昨年度末から15%下落したが、東京証券取引所に上場する銀行株の下落率は38%に達した。特に4大銀行グループ株はUFJホールディングスが60%、みずほホールディングスが59%、三井住友銀行が52%、三菱東京フィナンシャル・グループが35%もそれぞれ値下がりした。
新日鉄は保有する、みずほとUFJの3月末の株価が簿価の半値以下になって銀行株の評価損が520億円に膨らみ、税引き後利益で300億円の赤字に転落する。高炉の改修に備えた引当金を取り崩すなどして370億円の特別利益を計上したが穴を埋めきれなかった。
新日鉄は10年前には67行の銀行株を持っていた。徐々に銀行と株の持ち合いを解消しているが、「残るは主力銀行だけだが、全く持たないわけにはいかない」(関哲夫副社長)。歴史の古い企業は各社とも「持ち合い解消は進めている」(神戸製鋼所)ものの、4大銀行グループに保有株を絞ったことが裏目に出て、各社の業績を直撃している。特に日本の主要企業の7割と取引があると言われる、みずほ株下落の影響が大きく、みずほだけで100億円を超える評価損を出している企業も多い。また、4大グループと取引がある地方銀行なども軒並み業績の下方修正に追い込まれている。
このため多くの企業で経営努力やリストラで売上高や経常利益は増収増益になっても税引き後利益に結びついていない。東宝は映画「千と千尋の神隠し」の大ヒットで2002年2月期単体決算の売上高予想を上方修正したが、税引き後利益は下方修正に追い込まれた。産業界からは「業績は株主や従業員に喜んでもらえる段階にまで立ち直りつつあったのに、銀行株のおかげで大変なことになった」(三井造船)といった不満も強い。
大和総研の試算によると、東証上場企業の保有株式の含み損益は、昨年度末より10兆円近く悪化して差し引き3兆5700億円の含み損になり、含み損のうち3兆円強は銀行株が占めると見られている。各企業は今後、一層の持ち合い解消を検討するとしているが、銀行が株式を手放せば自社の株価も一層下落しかねず、簡単に解消を進めるのは難しいのが実情だ。
(4月9日21:56)