発足初日からみずほ銀行<8305>を襲ったシステム障害は、金融業界ばかりでなく、わが国のコンピューター業界にも大きな衝撃を与えた。日立製作所<6501>、富士通<6702>、日本IBMという「最強の組み合わせ」で臨んだ今回のシステム統合。しかし、「主導権無き統合」(業界関係者)の帰趨(すう)は衆知の結果となった。互換性が高く「開かれたシステム」という売り文句で需要が拡大するUNIXだが、結局、この統合では“無意味な箱”と化す。この失態による逆広告効果は計り知れず、今後のコンピューター各社の販売にも多大な影響が出るのは必至。旧第一勧業銀行と富士銀行の意地の張り合いは、単なるみずほグループ内の不協和音にとどまらず、大規模システムに弱い“日の丸コンピューター”の実像をも浮き彫りにした。
●対立、反発、先送り〜出来なかったシステムの一本化
みずほ銀行の「不幸」は、システムの一本化が成されなかったことに尽きる。
合併3行の勘定系システムは、日本興業銀行が日立製作所、第一勧銀が富士通、富士銀がIBM。リテールバンクのみずほ銀行は一度、第一勧銀のシステムに一本化し、他の2行のシステムを廃棄する「ワンバンク方式」の採用を決定したものの、これに対し“富士銀―IBM連合”が強く反発。結局、3行のシステムをひとつの中継点に集める「リレーコンピューター」を発足時に採用することで話はまとまった。各行、各コンピューター会社、それぞれの思惑と対立を一時避難させることで、難局を乗り越えようと考えたわけだ。しかし、今回のトラブルはその中継点でバグを起こした格好で、問題の先送りがとんでもない失態につながってしまった。
●いまだ根強い「システム主導=経営の実権」の考え方
銀行だけでなく、すべての業種・業界の合併で当てはまるのが「システムの主導権を握った会社が実質的な存続会社」という理論だ。とくに「対等合併」といわれる企業間では、システムに対する主導権争いは凄まじく、かつて合併したある証券会社では、相手先企業のシステムの誹謗中傷をマスコミにリークし合うなど、自社のシステムを維持するよう働きかけたケースも事実あったほどだ。
今回のみずほ3行の場合でも、ホールセール銀行で「興銀―日立連合」が「陰に陽に勢力を奮い、主導権を握りとった」(コンピューター業界関係者)と伝えられる一方で、今回問題になっているリテール銀行では「第一勧銀と富士銀だけでなく、IBMと富士通を巻き込んだ激しいツバぜり合いが展開されていた」(同)といわれている。
●代表幹事社のリーダーシップにも疑問?〜整合性とれなかった3社
銀行内の不協和音が今回の失態を引き起こした一方で、メーカーサイドでは、全体設計を担当した日立によるシステム構築の甘さを指摘する声もある。当該メーカーのある幹部は「銀行内の足並みの乱れが、システム構築にも強く影響を与えたことは同情するが、日立がもっとリーダーシップを発揮し、銀行団に意見していれば、こんな事態は招かなかったはず」と解説する。また、大きなシステムを構築する場合は複数のメーカーがジョイントベンチャー方式で参加するのが一般的。今回は日立が代表幹事役としてシステム構築にあたったが、「日立は自社の論理を突きつけるだけで、3社の整合性がとれなかった」と、ある関係者は振り返る。
●これ以上の失態は「絶対に」許されない
今年1月、経営統合したUFJ<8307>で起きたシステムトラブルを目の当たりにした三菱東京フィナンシャルグループ<8306>は、国際証券<8615>など傘下の証券4社の合併期日を7月から9月に延期した。これは「システムの万全を期すため」としているが、これこそユーザーサイドによるコンピューター会社への信頼性低下の現れだ。
大規模システムに弱い日本のコンピューター会社には、慢性的なシステムエンジニア不足など、解決すべき課題が山積している。はからずも銀行のシステムトラブルの“準主役”となってしまったIT企業。これ以上の失態は絶対に許されないであろう。
○URL
・露呈した金融界の“盲点”〜みずほ障害が示すシステム軽視のツケ
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200204/09/20020409103016_01.shtml
・「金融再生最前線」〜大再編に大暗雲・・・みずほのATM障害
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200204/03/20020403103510_21.shtml
[木幡和美 市川徹 2002/04/09 12:55]