民主党の浅尾慶一郎参議院議員は、12日に発表される金融庁の「特別検査」の結果公表について、「“大丈夫という発表”が予想できる。そもそも公表したところで、結果は決まっている」との見方を示した。ブルームバーグ・ニュースとのインタビューで明らかにした。
「なぜ、そのようにいえるのか」
金融庁は2001年10月、マイカルの破たんに端を発する信用リスク不安で、従来から実施している大手銀行に対する通常検査とは別に、「特別検査」を開始した。市場の評価が著しく変化している大口融資先企業に対し適正な償却や引当を確保しているかどうかを確認するのが目的だった。
しかし、市場では、厳格な引き当てを行えば、資本がき損する銀行が相次ぐ、との見方が広がっている。浅尾氏が指摘しているのは、こうした背景を踏まえたもので、金融庁が「“大丈夫”」を言っても、戦前・戦中の“大本営発表” と一緒で、市場や国民から不信感を拭い去るのは難しい。
浅尾氏はさらに「金融庁は以前から検査をしたところで自己資本比率(BIS基準の8%)を割るような銀行は出てこないとしている。しかし、検査をする前から、なぜ、そのようにいえるのか」。金融庁のスタンスは「矛盾している」と述べた。
浅尾氏の類推によると、こうした疑問に対する金融庁の言い分は「各行とも、検査をやる前から相当な額の追加処理見込みを積んでいるから大丈夫」というものだ。浅尾氏は「大丈夫”」なら、特別検査をやること自体に意味がないとした。
「必要だが十分条件ではない」
また、2月に発表された「総合デフレ対応策」で、金融問題をとりあげているが、「小泉政権が誕生してから1年が経過し、あれ程度のことしか出てこないのは、市場の失望を買うのではないか」との懸念を示した。
この「総合デフレ対応策」は空売り規制の強化や銀行等保有株式取得機構の積極活用による、大手銀行など金融機関の3月末決算末に照準を合わせた内容だった。“デフレ阻止策”というよりも“金融危機回避策”の色彩が強いとされている。
浅尾氏は、金融問題が解決したからといって、日本の生産性が上がり、国際競争力が回復し、デフレの問題の解決に必ずしも直結しない、としている。そのうえで、「金融問題は必要条件だが、十分条件ではない。長期的に日本の産業をどのように力強くするか、については全く将来像が見えない」と述べた。
「総合デフレ対応策」の発表後、株価が1万1000円台を回復したことについては「短期的には貸株規制は一番効果があったのではないか」としたが、「空売りがなくなったから(株が)買い上がっていく状況か、というと、そうではない」とその効果の持続性について疑問視している。
そのためには「力強い経済をつくなければならない。株式が生産価値ではなくPERでみた場合、日本の株が割高だとすれば、もっと収益率を上げていかなければならい」と、総合デフレ対応策はそのための政策ではないとの考えを示した。
「時間かければかけるほど衰退する」
今後の特別検査の厳格さ次第では、公的資金注入論の再浮上も予想される。浅尾氏は、公的資金の注入について「思い切った手術をするか、(今後も)カンフル注射を何年か打ち続けるか、ということになる」と例えた。
思い切った手術をした場合には、一時的に債務超過となって、国有化される銀行も出てくる可能性が高いといわれている。浅尾氏は「短期的には、税金を使って財政出動もせざるをえない」としたが、その規模や時期などについては言及を避けた。
ただ、手術をすれば「長期的には力強い金融機関をもう一度作ることができる」とした。やさしい政策をとればとるほど「不良債権の処理に何年もの時間がかかる」とし、時間がかかれば健全なところも悪化し、国全体が衰退していく方向になると警笛を鳴らした。
不良債権処理について「景気回復の必要条件だとは思うが、処理したからといって十分条件が整うわけではない。処理をしてお金が経済全体に流れるようにしていくことが必要だ」。それと同時に、長期的に成長エンジンとなるべき産業群を育てなければならないとし、ハイテク・環境・サービスの3分野を挙げた。
「劇薬」で経済の回復を
税制改革について、浅尾氏は「国は目指すべき大きな方向性を出して、その方向性を手助けするための税制改革が必要」とし、これから育てなければいけない産業群と投資優遇税制を結びつけると一番効果があると見ている。それらの産業が設備投資などをする際にかかる税を優遇すればさらなる投資が喚起され、産業の成長も可能となるためだ。
そのほか、「劇薬だが」と前置きをしたうえで、相続税の引き上げと贈与税の思い切った引き下げをセットでの実施を挙げた。金融資産1400兆円のうち大部分を65歳以上の国民が保有していることに触れ、預金や株の生前贈与のインセンティブを高くすれば、超短期的には経済の回復に効果があるとした。