「事態の展開しだいでは、“ペイオフ制度”の適用も避けられない、という判断に傾きつつあったのです。それだけに、金融庁と預金保険機構の危機感は相当強いものがあった…」
金融庁幹部がこう言ってみせる。
前述のコメントに登場する「“ペイオフ制度”の適用」とは穏やかではないが、いったい金融庁、そして預金保険機構では何が起こっていたのであろうか。
「今年1月に経営破綻した相互信用金庫への破綻処理を巡って重大な問題が発生していたのです」(前述の金融庁幹部)
大阪市内に本店を置く相互信金が経営破綻に追い込まれたのは今年1月。そしてこの経営破綻劇を受けて大阪信金(本店・大阪市天王寺区)が相互信金の受け皿に名乗りをあげたことから、大阪信金を事業譲渡先とすることを軸にする形で、処理作業が進められてきた、と言っていいだろう。
この処理作業に異変が発生したのは、今年3月15日、同日開かれた相互信金の総代会(株式会社の株主総会に相当)で、相互信金の解散および大阪信金への事業譲渡が否決されてしまったのである。
「こうしたケースは、過去に例がない−」(金融庁幹部)
この相互信金の件に関しては、当コラムでも一度取りあげさせていただいたことがある。従ってここでは、一連の事態の推移については必要最小限なものにとどめておくことにする。
前述したような事態を受けて相互信金の金融管財人は、大阪地裁に対して総代会に代わる“代替許可”の申請を行ったのである。
「預金保険法では、仮に株主総会や総代会で解散・事業譲渡が否決されたとしても、債務超過に陥っている金融機関に関する限り裁判所の許可・決定が得られれば、総代会等の議決と見なされるのです。しかし、この代替許可に対しては即時抗告が認められており、抗告が行われた場合、執行停止となってしまうのです」(金融庁幹部)
それでは仮に、“執行停止”となった場合には、その破綻処理はどうなるのだろうか。
「実を言うと、預金保険法にはそうした場合に対処する方法の想定がないのです。それで金融庁と預金保険機構が大騒ぎになったのです。預金保険機構には、出向してきた五人の判事が在籍していますが、彼らが預金保険法をはじめとする法律を必死になって読み込み、対応策を考えている最中、というのが実態です」(金融庁幹部)
ところが今に至るも妙案が出てこないのが実情だ。
「最悪のケースでは、相互信金を民事再生法に基づいて処理する、ということも十分にありえます。むしろ特別抗告が出された場合には、そうなる可能性が高いでしょう。もし仮に民事再生法による処理ということになれば、元本1000万円を超える預金については精算配当、1000万円以下については預金保険法に基づいて保護−つまり無条件で返還−という形がとられることになります。言ってみれば事実上の“ペイオフ”ということに他なりません」(金融庁幹部)
相互信金のケースで言えば、現時点では特別抗告はなされていないのが実情だ。
とはいえこの相互信金のケースは、今後に大きな禍根を残すことになった、といえるだろう。