みずほ銀行の現金自動預払機(ATM)障害が、金融界を揺るがしている。障害の詳細は他稿に譲るとして、今回の障害は、依然から問題視され続けてきたある盲点を露呈させた。日本の金融界にまん延してきた“システム軽視”の風潮だ。
●軽いシステム担当重役の職責
「障害の詳細は承知していないが、みずほのようなケースはいつか必ず起こると思っていた」―。金融機関向けのITコンサルティング会社の幹部が言い切る。「銀行界ほどシステム戦略が軽視されている業界はない」(同幹部)からだ。
欧米金融機関の場合、大手になればなるほど、各社の最高経営責任者(CEO)に限りなく近いポストにシステム戦略を担当する重役が陣取るのは常識だ。担当役員は世界的なITネットワークの構築や、電機メーカーとの折衝、戦略的な新システムの設計と重責を担う。後戻りのできないIT社会の中で、ライバル社にシステム面で格差を付けられてしまえば、「会社自体の死が待っている」(米系投資銀システム担当役員)ためだ。
邦銀界でもここ1〜2年でITの重要性に着目、担当重役の権限が強化されてきたが、「行内の派閥抗争に破れた人材が回る閑職ポスト」(大手行筋)の域を出ないのが実情。こうした役員は、行内での発言力も弱いと言わざるを得ない。
●システム軽視派の暴走?
近年の銀行界は、投資信託の扱いを始めたり、インターネット口座を設けるなど、取り扱い商品の増加や決済手段の多様化が著しい。しかし基幹を成すシステム群は、「大量のデータを正確に付け合わすことばかりを優先した古い設計思想のまま」(先のコンサル会社幹部)だ。古いシステムに無理な増築を重ね続け、「みずほのような形で他のシステムとの統合を急げば、障害が出ないほうがおかしい」とプロの目には映る。
この幹部は「システム部門が警鐘を発したにもかかわらず、面子ばかりにこだわるシステム軽視派の重役たちが“とにかくやれ”と暴走したのではないか」とも推測する。
●「他人事ではない」の本音
みずほ銀行のトラブルを横目に、他の大手金融グループからも「他人事ではない」との声が漏れてくる。近年の再編劇を経て、近く大規模なシステム統合を予定する金融機関は多い。
同様のトラブルが自分のところでも置きかねないとの危機感があり、「システム重視の布陣を早急に作る必要に迫られる」と見ているからだ。横並び体質から脱しきれていない他行も、みずほのトラブルは他人ごとではない。「明日はわが身」(大手行)なのだ。
邦銀のシステムは、先に触れたように「大量のデータを正確に付け合わす」ことが最大の長所とされてきた。しかし、今年に入ってからUHJ銀行、みずほ銀行と相次いでミスが続発、長所は最大の「地雷」に変質した。不良債権処理に遅れが許されないことと同時に、システム重視路線に急展開で舵を切るという大きな課題を抱え込んだ。
(相場 英雄)
・「金融再生最前線」〜大再編に大暗雲・・・みずほのATM障害
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200204/03/20020403103510_21.shtml