●市場からは冷めた声〜特別検査の結果が公表へ
4月12日、昨年秋から金融庁が続けてきた特別検査の結果が公表される。どのような内容になるのか、市場には冷めた見方が多い。なぜなら、数字でいくら不良債権処理が進んだことを印象付けようとしても、具体的に過剰債務企業の再編、淘汰が進まない限り納得できないからだ。数字は今年3月期で、大手銀行が計上する不良債権処理額が、8兆円規模にまで膨らむはずだ。このため大手銀行各行では、業績修正を相次いで発表し始めた。しかし、処理されたのはゼネコン、不動産、流通といった一部の構造不況業種に限定されている。処理の大半は大手企業ではなく、息も絶え絶えの中小企業。今期にはノンバンク、商社等々の処理も続く。しかし、これを受けて今月、開催が予定されているG7で塩川財務相は、ある宣言を行うと伝えられている。
●塩川財務相の“企て”〜まかり間違うと世界中から失笑も
「塩川財務相の企て」とは、この特別検査の結果を持って「世界経済の足かせとなってきた日本の不良債権問題に解決のメドがついた」と高らかに宣言することだ、という。何と言う拙速か。さらに柳沢金融担当相も同じ行動に出ようとしているというのだから、あいた口がふさがらない。欧米ともに景気に明るさを取り戻しつつある中で、回復の兆しさえ未だ見えない日本の立場を少しでも良くしよう―との思惑だろうが、まったくの逆効果を生むだろう。欧米の失笑を受け、失望さえ買うことになるかもしれない。支持率の低下が顕著な小泉内閣にとっては、命取りにもなり得る大きな失点につながる可能性すらある。
●まもなく下がり始める?〜人工的に作り出された現在の株価
しかし、こうした愚行とも言うべき行動を待たなくても、日本の株価は下がり始めるだろう。それは現在の東京株式市場の株価が人工的に作り出されたものだからだ。
政府は、3月期決算を乗り切り、金融危機を回避するため強制的に相場を吊り上げてきた。金融庁が、強権を持って進めてきた空売り規制、年金など国の資金を使った株価維持、それらの効果は、もろくも剥がれ落ちる。今月中旬以降からは企業の3月期決算の発表が始まる。同時に企業業績の悪化、引いては景気の悪さが再確認され、外国人投資家は間違いなく株を売り始めることになろう。
●再燃する某生保の経営危機
そうなれば、3月期は乗り越えられたとしても、株価の下落は金融機関の経営に大きな影響を及ぼす。それも、解約ラッシュに襲われている生保には大打撃だ。特に風評にもさらされ続けている某生保には、とてつもないショックとなろう。株価の大幅な下落は、株の含み損を拡大させ経営の健全性を損なわせ、資産の売却にも悪影響を与える。それに解約に備えた資金さえも調達に苦しむ事になろう。万が一、某生保が破綻すれば、その影響はただちに資本を持ち合っている親密な「みずほ」<8305>「大和」<8308>などの大手金融グループに波及する。ここまでは、このコーナーが年の初めに示した最悪のメインシナリオがいまだに回避されずに残っていることを意味している。
●前代未聞のオンライン障害が追い討ち
官邸と金融庁には公的資金の一斉注入論は、すでに消え失せたという。それだからと言って、個別行への再注入論が消えたわけではない。むしろ、この某生保の危機説が消えない中では、その火はなおもくすぶり続けている。
そこにきて某生保には命取りになりかねない事態も起きてしまった。「みずほ」が、前代未聞のオンライン障害によって信用を大きく失墜させ、経営陣の責任が不可避の状況になってしまい、他人を助けている余裕はまったく無くなってしまったのだ。今回のトラブルで金融庁にも大きな借りを作ってしまった。
●小泉内閣の命運を左右する
それだけではない。未だに預金の流出の止まらない地方銀行が残っている。本当に些細な情報をきっかけに、取りつけ騒ぎは起きかねない状況が続いている。この幾多の危機を乗り越えて、6月とみられる柳沢金融担当相が内閣改造、森金融庁長官にとっては退任のタイミングまで体面を保ち続けるのか。そのためには、強権でこの金融危機の火種をねじ伏せるしかない。それが現在の市場にどの程度通用するのか。
しかし、その結果次第では、小泉内閣の支持率の急落を招き、その命運さえも左右しかねない。「不幸にも」と言うべきか・・・金融危機は回避されていない。口幅ったいが、以前このコーナーで予測したシナリオ通りに危機の足音が、確実に忍び寄っている。時間はもう残っていない。