政府がいうには、日本の景気はようやく底を打ち、順調に回復に向かっているのだという。
この1か月間に、以下の3つの重要な経済指標が発表され、はっきりそういう方向が示されている。
(1)3月1日の総務省発表「完全失業率調査」――今年1月の完全失業率は5・3%、史上最悪だった昨年12月より0・2%改善した。小泉首相「みんな増えると予想していたけど、減ったというのはいいことだ」。
(2)3月14日の政府月例経済報告――「景気は下げ止まりの兆しが見られる」と景況判断を上方修正した。
(3)4月1日の日銀企業短期経済観測調査――景気は「横ばい」を示している。つまり、“もう悪化してはいない”と政府の月例報告と歩調を合わせた。
国民の皮膚感覚とあまりにもかけ離れているのではないか。専門家の分析を聞くと、やはりいずれも巧妙な“脚色”が加えられていた。
■失業率改善のウソ
日本政府の統計では、完全失業者とは、“職を探しているのに職がない人”と定義されている。ここに仕掛けがある。
「総務省の統計を見る限り、失業者が増える傾向に歯止めがかかったように見えますが、これは統計上のテクニックによって下がっただけ。つまり、職を探しているのに見つからない人が減ったことは事実ですが、そのかわり、“職を探すことをあきらめた人”が大幅に増えているのです。本来、失業率の改善は景気回復より遅れるのが当然で、今の段階で改善するなどあり得ない。まだ半年くらいは悪化すると見るのが妥当です」(第一生命経済研究所の川崎真一郎・主任研究員)
実際、総務省の統計でも失業率は下がっているのに、失業者数は前年同月より27万人も増えており、特にリストラや倒産などで職を失った人は1年前の1・5倍に急増していることが示されている。
■「輸出と生産が改善」のウソ
政府の月例経済報告が上方修正された根拠は、「輸出や生産で下げ止まりの兆しが出てきている」ことだった。
輸出が伸びている最大の理由は円安ドル高にある。政府が預金者に「0・001%」などというタダ同然の超低金利を押し付けることで強引に円安に誘導しているからだ。そうした政策に後押しされる形でトヨタ自動車が史上初の経常利益1兆円を達成するとみられており、ホンダ、ソニーといった日本を代表するハイテク企業は軒並み好業績を挙げている。
だからといって日本経済が回復しているというのはこじつけにすぎる。
政府が無理やり作り出した「輸出産業の好調」がどういうことかを、みずほ総合研究所の主席研究員・眞壁昭夫氏がわかりやすく解説する。
「トヨタ、ソニーなどは日本の代表選手ですが、それだけで経済が成り立っているわけではありません。松井と清原の調子がいいだけでは巨人は勝てないのと同じで、ますます悪化する中小企業の経営を無視し、大企業の一部の部門だけをもって景気の底入れなどというのは間違いです」
そして、生産部門回復の証拠とされた「在庫の減少」の実態はこうだ。
「在庫が減るのは当たり前。在庫の循環には約36か月かかるとされていて、今、在庫が減っているのは、消費の減退に対応するために2001年の初頭から厳しい生産調整をしてきた効果がようやく出てきたからです。モノが売れるようになったからではありません」(眞壁氏)
あれだけリストラや工場閉鎖をやっているのだから、この説明ならむしろ納得できる。
■収益回復のウソ
日銀短観では、大企業の製造業全体で、今年度は経常利益が3割以上伸びる見込みであるとして「底入れ」を強調している。
国際証券のチーフ・エコノミスト、水野和夫氏は日銀の甘い見通しを一刀両断する。
「忘れてはならないのは、前の年度にITバブルの崩壊で製造業の経常利益が45・1%も落ち込んだということ。それと比較して3割伸びても、とても景気回復の兆しとはいえません。生産調整で在庫が減り、設備投資も増えない。完全に縮小均衡経済に陥っており、内需回復にはまだ遠い。企業決算が出揃う今年7月には再び下方修正されるでしょう」――。