総合商社の日商岩井<8063>が正念場を迎えている。商社の序列で6位に甘んじているものの、どの商社でも得手不得手はあり、日商岩井では、重厚長大分野が得手、軽薄短小分野が不得手となるのだが、もともと、神戸製鋼所<5406>などを生んだ鈴木商店をルーツとしているだけに、鉄鋼部門は保守本流の最大勢力として知られていた。実際、鉄鋼部門の売上高をみると、これまで三井物産<8031>、住友商事<8053>に次ぐ3番手をキープしていた。
その看板部門の鉄鋼部門を三菱商事<8058>と部門統合すると発表したのが昨年2月。引き金になったのは、先に統合を発表した丸紅<8002>と伊藤忠商事<8001>の鉄鋼部門で、こちらはすでに昨年10月、「伊藤忠丸紅鉄鋼」と呼ぶ社名で統合会社がスタートしている。
●出資比率40%にとどまる
この伊藤忠と丸紅の鉄鋼部門の売上高は一気にトップに躍り出ることになった。心中穏やかでなかったのが、三菱商事と日商岩井。社格からいえばもちろん、三菱商事のほうが上なのだが、鉄鋼部門だけは日商岩井のほうが上回っていただけに、日商岩井の首脳としては、三菱商事がパートナーならば折半出資に持ち込めるという判断が働いたものと思われる。事実、昨年2月の統合発表時点では、折半出資を条件にしていた。この三菱・日商岩井連合が誕生すれば、伊藤忠・丸紅連合を抜いて、鉄鋼商社としては日本一になれるからだ。
ところが、両社の鉄鋼部門の資産を精査するうちに、資産評価では両社の立場が逆転することが明らかになった。結局、先般発表された統合計画では、三菱が60%、日商岩井40%で落ち着いた。この差は大きい。なぜなら、どの企業の合併、統合のケースをみても、折半出資でなければマイナー出資となった企業のほうは、事実上、吸収されるのに等しいからである。「極端に言えば、出資比率が51対49でも、100対0に等しい」といわれるのもそのためである。
●三菱商事が支配権
もっとも、伊藤忠・丸紅連合もあくまで折半ということでスタートしたが、「社名では伊藤忠が先で丸紅側には不満が多く、だから、英語名では丸紅が先に明記されるというような低次元の争いが続いているほど」(業界関係者)。
それからみると、「してやったり」は三菱商事。なぜなら、今のところ沈黙を守っている三井物産と住友商事も、鉄鋼部門をお互いに統合するようなことになった場合、売上げの規模は、再び三井・住友、三菱・日商岩井、伊藤忠・丸紅という3グループに集約されることになる。
だが、鉄鋼メーカーも、NKK<5404>・川崎製鉄<5403>、それに新日鉄<5401>・住友金属<5405>・神戸製鋼連合という、事実上の2グループに再編されるため、取引商社も生き残れるのは2社程度だろう。こうなると、三井・住友が残るのは確実だが、あともう1社。そこで、三菱商事は日商岩井の鉄鋼部門を体よく吸収することで、イニシアチブを握れるのだ。逆に言えば、日商岩井としては生き残るため、看板部門の主導権を三菱商事側に明け渡しても統合する必要に迫られていた。
●選択肢はニチメンとの統合?
分社化には商社の中で最も積極的に動いている日商岩井だが、一時、トーメン<8003>、ニチメン<8004>との3社連合も囃されたが、これは現実的でない。トーメンの場合、むしろ資本提携関係にある豊田通商<8015>と合併、または統合し、トヨタグループの有力商社になる線が濃厚だからだある。鉄鋼部門を実質、三菱商事に呑み込まれたいま、日商岩井にとって残された選択肢はニチメンとの経営統合しかなくなってきたようだ
(吉野 経)
・鉄鋼製品分野の事業統合に関する基本条件の合意について(日商岩井)
http://www.nisshoiwai.co.jp/nic/j/ir/020327.html