みずほフィナンシャルグループの第一勧業、富士、日本興業の再編で誕生した「みずほ銀行」のコンピューターシステム・トラブルが広がっている。三行が一気に統合したシステム上の複雑さはあるにせよ、困難さはあらかじめ想定できたはず。障害の公表についての後ろ向きな姿勢も目立ち、預金者からは不信の声が高まっている。金融システムを揺るがす大トラブルの背景を探った。(経済部・池尾伸一)
■決済不能 預金者の信用に傷も
「百三十五万円を入金したら、いきなり出てきたのが『取引停止』の表示だった」。東京都港区のみずほ銀行支店を訪れた男性は、自ら体験したトラブルに青ざめた。支店の職員から手書きの預かり証を手渡されたが、金の行方を思うと不安はぬぐえない。
本や衣料の売買を仲介するインターネットのホームページを運営している男性も「代金は買い手から銀行に振り込んでもらっているが、入金が遅れれば大きなトラブルになりかねない」と、障害発生以来毎日、支店を訪れ通帳記帳している。
みずほグループでは預金口座を管理するコンピューターシステムは旧富士はIBM、旧第一勧業が富士通、旧興銀は日立とそれぞれ違うメーカーのコンピューターを使っていた。今回の統合でそれぞれのコンピューターを、いったん「中継コンピューター」につないでデータのやりとりをする変則的な形でスタート。システムが複雑なのに加え、今月一日の統合の準備のために三十、三十一日とシステムを止めた。
ただでさえお金の振り込みが集中する年度末に一日を加えた三日分のデータが、統合日になだれ込み「スタートしたばかりのシステムがパンク」(みずほ幹部)した。
しかし、年度末と、システムの統合が重なるのは、当初から予想されたはず。ある電機メーカーの幹部は「通常より何十倍ものデータを流し込むテストを繰り返して、処理できるか準備を重ねるのが基本。明らかに準備不足だ」と指摘する。
準備だけでなく、トラブルが発生してからの一般の預金者への情報公開でも甘さが目立つ。クレジットカードの引き落としは一回でも遅れれば、預金者はブラックリストに載せられ、ショッピングへの支障ばかりでなく、個人の信用問題にも発展しかねない。
■“3行縄張り”弊害
みずほは、引き落としの遅れが一日から発生しているのが分かっていながら四日まで公表せず、二重引き落としについても公表は五日昼。この日夕の会見で新たに公表した二重送金や振り込みの遅れも、当初から発生していたトラブルだ。金融界では、今回のみずほの対応の甘さを「同行独特の体質が影響している」と指摘する向きが多い。
「もう間に合わない」。統合作業が大詰めを迎えた今年二月、みずほ内でシステム統合を担当していたエンジニアは焦りの色を隠せなかった。銀行合併では、どちらかが主導権を握る例が多いが、みずほは「旧興銀、旧富士、旧第一勧業の出身者がそれぞれ、自分たちこそ『日本一の銀行』というプライドが高く、縄張り争いが激しい」(旧富士の幹部)といわれる。統合作業ではどんなささいなことも旧三行の協議の繰り返しで決め、意思決定が遅れがち。システムの統合作業も、三行の合意を前提とした結果、万全な試運転に必要な時間は少しずつ失われた。
銀行の自動振り替えや振り込みは経済活動にとって空気のような基本的なインフラ。信頼を揺るがす今回のトラブルは、金融不安や一日に解禁されたペイオフで、神経質になっている国民の不安心理を一気に拡大させかねない。「まずはシステムを正常にするのが最優先」と口をそろえるみずほ幹部らだが、経営陣の責任はあまりに重い。
▼みずほ 決済未確認500社超〜復旧は来週末に〔東京新聞〕
口座振り替えトラブルや二重引き落としなど大混乱の続くみずほ銀行とみずほコーポレート銀行の持ち株会社、みずほホールディングスは五日、石坂文人・専務執行役員らが記者会見し、同日現在、口座振り替え処理の遅延が二百五十万件に及ぶと同時に、振り込みの遅れや二重送金も発生したことを明らかにした。口座振り替えの遅延解消、復旧には「来週いっぱいかかる」としている。国民の四人に一人が取引するみずほグループの混乱が金融システムへの信頼に与えるダメージは大きく、柳沢伯夫金融担当相は同日、業務改善命令の検討も示唆。今後、経営責任問題に発展するのは必至だ。
記者会見での説明によると、約三百万件の口座振り替えが集中した一日、都内の電算センターのシステム不具合、事務の不手際などから口座振り替えが遅れ、連鎖的に二日以降の処理も遅れている。この影響で(1)振り込みにも三千件の遅れが生じた(2)二重送金も五千件発生(3)逆に、二重引き落としは三万件に上った−としている。また、ATM障害で通帳残高だけが減るトラブルは百四十七件あった。
石坂専務は「三つの大きな銀行を二つに組み替える中、コンピューターシステムも倍の処理を想定してテストしてきた」とした上で「三倍、四倍でやっておくべきだった。大容量を迅速に処理するシステム上の配慮、作業手順を含めた人的な配慮が足りなかった」と述べ、準備不足、見通しの甘さを認めた。引き落とし通知が遅れて決済完了が確認できないのは、電力やガス業界を中心に、五百−六百社に上る見通しで、「決済」という銀行の根幹機能に障害をきたした事態に、石坂専務は「深刻に受け止める」と謝罪した。
同社は五日、前田晃伸社長を本部長に緊急対策本部を設置し、みずほ銀行、みずほコーポレート銀行にも同様のチームを発足させた。口座振り替えのコンピューターを納入した日立製作所のシステムエンジニアをはじめ、百人以上を投入し、復旧作業に当たる。ただ、今の遅延は来週中に解消するとしながらも、石坂専務は「他のトラブルが起きる可能性は否定しきれない」と述べた。
一方、金融庁は金融システムへの信頼を損ないかねないトラブルに厳しい態度で臨む方針で、みずほの再発防止策を注視した上で「問題が再発した場合は業務改善命令を検討する」としている。