「ここへ来て、預金保険機構のトップ人事−つまり理事長人事が霞ヶ関サイドではひそかに注目を集めつつあるのです」
金融庁幹部がこう言ってみせる。
現在、預金保険機構の理事長を務める松田昇氏は、法務・検察出身で96年6月にそのポストに就任している。
「政府系金融機関のトップの任期は、原則として3期6年というのが不文律になっており、預金保険機構もこれに準じて扱われているのです。そうした点で、松田理事長も今年6月にも退任する可能性が高くなっているのです。松田理事長自身もそうしたことは認識されているようで、時々退任をにおわす発言をしています」(金融庁幹部)
そもそも松田理事長は、預金保険機構のトップとしては、異色の経歴の持ち主だった。
松田理事長は、61年に司法修習生となった後、東京地検検事に任官。以降、東京地検特捜部長、最高検検事、水戸地検検事正、法務省矯正局長、最高検刑事部長を歴任した後、現職に。
「その経歴から判断して、まさにバリバリの捜査畑の検察官だった人物です。ある意味で“金融”とは何の縁もゆかりもない人物」(金融庁幹部) そうした“経歴”を持つ松田氏が、なぜ預金保険機構の理事長に転出したのかというと、90年代後半に勃発(ぼつぱつ)した一連の金融・大蔵省スキャンダルの影響によるものだった、と言ってよいだろう。
「金融庁および財務省としては、後任の理事長には“金融のプロ”を、という意向を強く持っているのです。つまり、金融庁もしくは財務省出身者を次期理事長に、ということに他なりません。現在、水面下で調整作業が進められている最中です」(金融庁幹部)
もっとも、こうした金融庁・財務省サイドの“意向”に対して、法務・検察サイドは若干の注文があるようだ。
「理事長ポストを金融のプロに、という点に関して言えば、われわれとしても致し方ない、と思っている。とはいえ、法務・検察が預金保険機構から一切手を引くというのは、ちょっと承服しかねる。理事長ポストを返上するのであれば、役員ポスト、つまり理事ポストぐらいは確保したい」
現在、預金保険機構の役員の陣容は、理事長を除くと、4理事、1監事という体制が取られている。4理事の内訳は、旧大蔵省(財務省)1、警察庁1、日銀1、民間1−というものだ。
「このうち旧大蔵省OBの花野昭男理事が、今年6月に退任する予定なんです。この“ワク”を法務・検察サイドに提供するということで着地を図りたい」(財務省幹部)
もっとも肝心要の理事長人事については全くの白紙、というのが実情のようだ。
「いずれにしても、金融庁・財務省出身者の中から人選されるということについては、ほぼ問題はなくなった−」
“ペイオフ解禁”という事態を受けてますますその重要性を増す預金保険機構だが、その理事長人事の行方には注目したい。