中東といえば、このところの関心事はもっぱら政情だ。いかにしてパレスチナの「自由の戦士」を切り離し、米国が対テロ戦争を実現できるかが盛んに議論されている。
イラクのフセイン政権打倒を視野にアラブ同盟を傷つけまいとするためだが、心配は無用だ。そもそもイラク問題でアラブ同盟は存在しない。しかし、中東で全面戦争が展開されれば、その経済的影響は見過ごせない。すでに景気後退局面にあるイスラエル経済への打撃、それに原油高だ。中東からの原油供給が途絶える可能性が高まるなかで、原油相場はこの1カ月で25%近く上昇している。
アラブ諸国が原油というカードを切った場合、各国中銀が抱えることになるジレンマはあまり明らかになっていない。イラクとイランは2日、イスラエル支持国への原油輸出削減という “武器”を用意していると表明した。
この筋書きによると、世界景気の回復が新たな需要を生む一方で、原油相場は上昇するが供給は減ることになる。原油高という最初のショックが、物価全体の上昇につながるかどうかは金融当局の手腕にかかっている。貨幣の増発で対処するのが最善策でないことは、1970年代の教訓から学んでいる。
ミクロ経済
米金融当局者を含む大半のエコノミストは、原油高を増税、原油安を減税と同じようにとらえ、需給で生じる価格の変化を決して考慮しない。
ミクロ経済学にある需要曲線で考えると、世界の景気拡大で原油需要が拡大すれば、原油相場は上昇、産出量は増加する。しかし、産油国が対米輸出の削減に動くとなれば状況はまったく異なり、原油相場は上昇、産出量は減少する。米金融当局にとって最悪の状況となるのだが、当局は1)景気刺激のための金融緩和、2)インフレ抑制に向けた金融引き締め――のどちらに動くのだろうか。
検証
1)は誤った答えだ。供給が減らされたときに需要を喚起しても、成長は拡大できず、インフレ悪化を招くだけだ。ノーザン・トラストの調査部門責任者カスリエル氏は「グリーンスパン連邦準備制度理事会(FRB)議長はエネルギー価格の上昇を無視するだろう。それどころか、増税とみなして利下げに動くことも考えられる」と指摘する。
これは債券市場が敬遠するシナリオだ。燃料費への支出拡大を迫られるなか、低金利が維持されていれば、消費者は生活水準を維持するため借り入れを行う。資金需要の高まりに当局が金融緩和で対応しようとすれば、石油価格は上昇し、ほかの物価は下がらなくなる。これは原油高を貨幣増発で乗り切るのと同じだ。
バークレイズ・キャピタル・グループのグローバル・ストラテジスト、ボンド氏は「恐らく、金融市場は原油高と金融緩和の組み合わせに対し、長期金利へのインフレによるプレミアムを大幅に拡大することでリスクをカバーしようとするだろう」と指摘する。
多分、その通りなのだろう。