「金融庁と柳沢伯夫金融担当相、その両者に加えて一部マスコミも、公的資金再投入をめぐる“速水発言”を完全に曲解している。この3者は、“速水発言”の真意を全く伝えていないと言っていいだろう」
日銀幹部がこう吐き捨ててみせる。
去る4月2日付の日本経済新聞朝刊が、「金融相、日銀総裁に休戦宣言 公的資金注入の是非 核心変わらず表現違うだけ」というタイトルの囲み記事を掲載した。
それほど長い記事ではないため、以下にその全文を紹介する。
<柳沢伯夫金融担当相は、一日の会見で、公的資金注入の是非をめぐり意見が対立してきた速水優日銀総裁について「本当の核心はそんなに違いはない。表現が違うだけ」と述べた。金融不安の懸念がひとまず後退しているだけに柳沢金融相が「休戦宣言」を出し、議論に幕を引いた格好だ。
速水総裁は経済財政諮問会議などで、大手銀行の自己資本は公的資金注入などで実態よりかさ上げされている上、不良債権処理を進めれば資本不足に陥るため、公的資金を再注入する必要があるとの見解を示してきた。
金融相は「(公的資金が)今すぐ必要だというわけではない。(速水総裁の発言は)必要ならばできるだけ早く入れた方がよいという意味だろう」と述べ、二人の間に大きな意見の食い違いがないことを強調した。
前述の日銀幹部が言う。
「速水総裁が再三指摘している『大手銀行は実質的に過小資本状態にある』という部分と、『大手銀行に対して公的資金を投入する必要がある』という部分は同じセンテンスではつながらないのです。この2つの“指摘”は、全く違うシチュエーションの中で出てきたものなのです。このことは、“速水発言”をきちんと検証していただければ、すぐにわかることです」
このコメントに出てくる、「大手銀行は実質的に過小資本にある−」という“指摘”の意味するところは、「大手銀行の自己資本から、公的資金による資本注入分と税効果会計分を取り除くと、自己資本比率8%を大きく割り込んでしまう」ということだ。
こうした“指摘”については、専門家の間でいろいろと意見は分かれるものの、その方向性としては正しいと言っていいだろう。
「速水総裁としては、だから公的資金を入れるべきとは一言も言っていないのです。速水総裁としては、そうした状態−つまり公的資金や税効果会計によって自己資本がカサ上げされた状態−は、決して健全とはいえない。各銀行は市場から資本調達するなどして、自力で自己資本の増強を図れるような経営体制を早急に整えるべきだ、と主張しているにすぎないのです」
それではなぜ、速水総裁はその一方で公的資金の再注入の必要性を説くのだろうか。
「それというのも、今年に入って金融庁サイドから、『いわゆる“風説”の類で資金繰りに窮した銀行に対して、日銀特融を実施してもらえないだろうか』という要請があったのです。しかしそうは言っても、日銀特融だけでは信用補完にはならない、公的資金投入がまず先だろう、というのが日銀の主張なのです」(前述の日銀幹部)
金融庁vs日銀という構図は、まだまだ続きそうだ。