小泉政権は、個人や企業の活力を引き出す活性化減税と銘打って、個人所得税の変更(課税最低限の引き下げ・税率のフラット化・所得控除の圧縮・金融所得分離の二元的所得税など)・法人所得税の減税・贈与税の非課税枠拡大(住宅購入促進)といった「税制改革」を打ち出している。
個人所得・法人・相続税などで課税範囲を広げる一方で、所得が増えるほど税率が高くなる税率の累進構造をなだらかにするものだという。
そして、長期的な課題として、社会保障制度改革と連動した消費税率引き上げなどを検討している。
これらの「税制改革」のスローガンが、“「活力」重視の税制改革”・“国民が「広く公平に」税負担する仕組み”・“税体系の整理と簡素化”・“「努力が報われる」税制”などである。
小泉政権が打ち出している「税制改革」は、端的に言えば、“レーガノミックス”や“サッチャリズム”と言われる歴史的に破綻が証明されている愚かな政策に依拠したものである。
「金持ち優遇税制」だからという理由で批判するのではない。
「小泉税制改革」が「デフレ不況」をさらに悪化させことで、大多数の勤労者のみならず、「小泉税制改革」で一時的には税的な優遇を受ける勤労者たちも少しずつとはいえ徐々に不遇の立場に落としていくものであるが故に批判するのである。
そして、そのような循環が、さらに「デフレ不況」を深化させていくことになる。
“レーガノミックス”は、「企業減税や高額所得者減税を行えば、投資が促進されて経済活動が活発になり、大きな経済成長を遂げられ財政の改善もできる」というものである。
しかし、“レーガノミックス”が実施された82年〜84年の米国経済は苦境に喘ぎ、85年には“レーガノミックス”を停止(減税策の修正)せざるを得なくなるとともに「プラザ合意」という抜本的な対応策を採る状況にまで米国経済を追い詰めたのである。
“レーガノミックス”がもたらしたものは、産業基盤の弱体化(空洞化)と企業の買収とその資産の切り売りで荒稼ぎするM&Aブームだけだったと言っても過言ではない。
「規制緩和」も、航空業界に見られるように、一時的には華々しい新規参入もあったが結局は寡占化を招き、利用者は通常の利用では高い航空運賃を負担しなければならなくなったり、カルフォルニアの電力危機のように、安定的な需給構造が維持できなくなったりしている。(英国でも、民営化した鉄道が破綻し、再度国有化されようとしている。そのために、株主に対して1兆8千億円もの利益補填さえ画策されている)
米国経済がなんとか立ち直り、「90年代の繁栄」と呼ばれるようになった契機は、「湾岸戦争」で脅威的な高支持率を誇ったブッシュ大統領を破って当選したクリントン大統領の「高額所得者増税政策」の実施である。
※ 『クリントン時代の「経済的繁栄」と「財政赤字」は“高額所得者増税”から始まった』( http://www.asyura.com/sora/dispute1/msg/374.html )を参照してください。
史上最も有名な1929年の「大恐慌」から続く米国の“大不況”も、ニューディール政策ではなかなか巧く脱却できず、富裕税を設定したり、戦争に突入するなかで法人税を50%に引き上げることでようやく終息に向かったのである。
小泉政権は、「デフレ不況」というとんでもない災厄に見舞われている日本経済をさらに悪化させる「税制改革」を行おうとしているのである。
■ 大多数(80%)の勤労者が増税になる個人所得税の変更は「デフレ不況」を深化させる
家族4人ほどを抱えていれば、年収7、800万円といっても、住宅費(ローン返済や家賃)まで含めて、大半が消費に回されることになる。このような実態は、年収レベルが下がれば下がるほど如実になる。
「小泉税制改革」は、供給力過剰=需要不足という経済状況のなかで、需要をさらに減退させるものである。
[参照]『Re:【所得税の仕組みと所得税制変更後の所得税試算】あなたの年収では?』
( http://www.asyura.com/2002/hasan8/msg/505.html)
「デフレ不況」から脱却するための「税制改革」は、高額所得者に増税を行い、その分を中低所得者の減税に回すものでなければならない。
そして、そのような政策で「デフレ不況」から脱却することこそが、高額所得者にも所得の増大をもたらし、高額所得者としての地位の長期的な保証を与えるものである。
■ 「資産デフレ」と「デフレ不況」からの脱却方法
小泉政権は、今回の贈与税非課税枠拡大という「税制改革」やPKO政策で見られるように、土地や株式といった資産の価格下落をなんとか防止し、できれば上昇させたいと考えているようである。
しかし、実体経済が「デフレ不況」である限り、そのような思いは“夢”であり、税収の減少や公的資金の毀損を招くものでしかない。
端的に言えば、金融破綻を防止する政策をとりながら、地価や株価は反転するまで放置するのが最善なのである。
政策でずるずると価格を下支えするのではなく、早く底を打たせた方が「デフレ不況」に結びつく。
詳細については、『【経済学者のトンデモ理論】 デフレの論理と「資産デフレ」罪悪説の問題点』( http://www.asyura.com/2002/bd17/msg/216.html )を参照してください。