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銀行自己資本の「詐術」〜「見せガネ」で三月期末しのいだが(選択2002年4月号) 投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2002 年 4 月 03 日 18:05:28:

http://www.sentaku.co.jp/
これでは、狂牛病安全宣言と同じではないか。四月からのペイオフ解禁を控えて、柳澤伯夫金融担当相が三月十五日、特別検査に基づく銀行の「安全宣言」を出した。そのそばから二十日には、岐阜銀行の株価が一時、額面(五十円)を割り込んだのだ。
岐阜銀は「二〇〇一年九月中間で黒字に転換しており、破綻はありえない」としているが、無配続きで不良債権比率も高いなど、経営基盤が弱いことから風評被害にあいやすいのだろう。金融庁がペイオフ後の混乱を避けるために、ブリッジバンク(継承銀行)の設立を急いだことが、風評を助長したというから皮肉な話である。
それにしても、形ばかりの安全宣言で民心の動揺が収まるべくもない。不信の源泉ははっきりしている。銀行が抱える巨額の不良債権であり、自己資本の水増しである。実例がある。昨年末に経営破綻し、中部銀行とともにブリッジバンクである「日本承継銀行」に譲渡されることになった石川銀行だ。
その苦し紛れの資本の水増しは、地元の北國新聞などでも報じられたが、国際的にも恥をさらした。英「エコノミスト」誌三月九日号は、「力の弱い借り手企業が、増資に応じるように圧力をかけられていた。例えば石川銀行から三千万円借りていた企業は、追加的に一千万円の融資を受けて、増資の払い込みに応じた」と実態を暴いたのだ。こうして集めた二二〇億円の第三者割当増資で、同行は二〇〇一年三月期末の自己資本を捻出した。が、株が紙屑になり、増資に応じた地元取引先が資金繰りに窮して、石川出身の森喜朗前首相にも陳情が殺到したのである。

お年寄りまで欺いた石川銀の罪

カネを貸した先に出資させるというこのおかしなカラクリ、破綻前の東京相和銀行を思い出さないだろうか。東京相和は、闇勢力などに迂回融資をすることで第三者割当の株式を保有してもらったが、最後は業務停止命令を受けて破綻、長田一会長が東京地検に摘発された。この粉飾増資と石川銀行はどこが違うのか。監督官庁の金融庁が「市場メカニズムは機能している」というそばから、似た手口が当局による自己資本増強の指導をかい潜る目的で行われていたのではないか。
石川銀行が罪深いのは、株式の知識が乏しい地元の個人預金者たちにも増資株を勧めていたことだ。その際の新株発行目論見書には、二〇〇一年三月末の「自己資本の基本的項目」を一五九億円と記しているが、何のことはない二二〇億円の第三者割当増資のカサ上げがなければ、六十一億円の債務超過だったことには口を拭っている。
目論見書の注記にはほんの申し訳程度に増資の事実は記されているが、株券など見たこともない年金生活者らお年寄りの預金者に理解しろと言っても無理だろう(石川銀行は本誌取材に「ノーコメント」)。地元銀行の裏切りとお粗末な目論見書、そして見てみぬふりをした行政当局は、日本版「悪の枢軸」ではないか。増資に応じた個人投資家たちが損害賠償訴訟を起こす構えを見せているのは当然と言ってよい。
でも、誰が石川銀行を笑えよう。大手銀行の自己資本比率は昨年九月末段階で約一一%にのぼり、「仮にTOPIX(東証株価平均)が八〇〇ポイントを切っても、主要行の自己資本比率は一〇・二%と何の問題もない」—。金融庁はこう主張し続ける。森昭治長官ら同庁幹部は「この点をもっと周知徹底させる必要がある」というのだ。
ごもっとも。だが、公的資金や繰延税金資産で邦銀の自己資本が著しく水増しされていることはすでに国際的常識。二月にカナダで開いた七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)でも、塩川正十郎財務相ら日本側は邦銀の自己資本不足を散々とっちめられた。
四月下旬にワシントンで開く次回G7までに、銀行の整理と追加的な公的資金の注入という答えを出さなければならないのに、日本の金融行政は逆噴射を始めている。金融庁の特別検査でも銀行の不良債権問題に大きな異状は発見されず、大々的な公的資金の追加注入の必要はない、と永田町の先生方に説得に回ったのである。

出回る「三者会談」の五枚紙メモ

「銀行は大丈夫」と強行突破で行く方針を練ったのは、財務省と金融庁の事務方である。三月初めの段階で、武藤敏郎財務次官、森金融庁長官、高木祥吉監督局長の三人が鳩首会談を開き、公的資金の追加注入を見送る方針を打ち出したという(金融庁広報室は三者会談があった事実を否定)。公的資金を追加注入するとなれば、前回九九年三月の注入が政治問題化しかねないし、財務省にとっても新たな財政負担はご免被る、という内容だったとされる。
鳩首会談のメモとみられる文書が、「ポイント」と題した五枚紙となって出回っている(金融庁は「会談メモは存在しない。週刊誌報道は事実無根」と否定)。内容はよくできていて、安全宣言や空売り規制などの動きはこのメモに沿ったかに見える。それによれば、銀行の自己資本不足問題は「十二月末の三地銀に対する措置(石川は破綻。福島、中部は早期是正措置)で、第二地銀以上は今年四月のペイオフ実施以降、資本不足に陥るところはない」とある。「特別検査への対応分についても十一月末の中間決算発表時の三月末処理見込みで、すでに対応済み」とあり、「信金、信組についても概ね対応終了」とある。
それなら、コール市場で資金調達が不可能になっている大手銀行が出ている現実についてはどうかというと、「資金繰り問題は、通常は発生しない」とのたまう。「ペイオフ実施に絡めた風評」が元凶なのであり、「十二月末に対応済みの三地銀に関する不安に基づいたα銀行(=日銀)の説明が不安を増長した可能性大」だという。
こうしたなかで、「十一月のβ銀行(=あさひ銀行)に対する外資の攻撃」が起きたが、実際には「現状では第二地銀以上については問題がなく、信金、信組についても概ね対応が終了している」のだから、市場の風評は株式の空売り規制を強化するなど、断固たる措置をとれば良いことになる。
市場の不信感が分からないどころか、逆に市場に対して不信感を募らすエリートたちの「哲学の貧困」については、今さらもうあげつらうまい。気になるのは、メモによれば日本の金融システムについてとんでもない認識を示している点だ。「十五兆円のセーフティーネットを持つ国は世界中で日本だけ。冷静に考えれば日本の金融機関は投資対象として世界でもっとも安全」とある。
それでも市場が誤った認識を持っているなら、「『銀行はつぶれない、つぶさない』ということを明確にする」が、その一方で「『十五兆円はいつでも注入の用意がある』ことは絶えず明確にしつつ、できれば注入しない」という作戦をとる。それとともに、「いわゆる『有名銘柄』に関する不良債権処理は終結したことを明確にする」というのだ。「十五兆円」の見せ金を使って、出来ることなら実際の資金負担はせずにすませたい、という財務省の思考が色濃く浮かんでくるようではないか。
メモの通りなら、不良債権問題に対するもやもやは晴れず、銀行の自己資本不足に関する疑念は募るばかりである。足元の循環的な景況感の好転を頼りに問題処理を先送りする手法を今回もまたとるということだろう。
それなら、竹中平蔵経済財政政策担当相や速水優日銀総裁の言うように、銀行に対して思い切った公的資金の注入を実施すれば、不良債権問題は解決するのだろうか。そうは問屋が卸さないところに、問題の深刻さがある。優先株で公的資金を注入しようにも、商法上の資本調達可能額という大きな足かせが存在するからだ。
商法では普通株主の権利を守るために、「優先株の発行上限は普通株の既発行数の二分の一まで」と定めている。公的資金の注入を受けている大手行の普通株の既発行数は昨年九月末現在で二七六億株強。その半分に当たる一三八億株が商法上の優先株の発行上限となるが、前回の公的資金注入の結果、大手行は四十四億株強の優先株を発行している。従って、新規に発行可能な優先株は九十三億株強という勘定になる。

公的資金注入は事実上の国有化

加えて、優先株の新規発行に際しての株価は、普通株の株価の二倍をメドにするという判例がある。空売り規制など強引な株価対策で日経平均株価は一万一〇〇〇円台に戻したが、銀行株は依然低迷しており、三月二十五日段階の各行の株価を前提にすると、優先株によって注入可能な公的資金の金額はおよそ六兆円にとどまる。こうも銀行株が安くては前回の公的資金注入額である七兆四五〇〇億円にも満たないカンフル剤にとどまる公算が大きいのだ。竹中経済相がいう大規模な公的資金注入など、絵に描いた餅だ。
四月からの商法改正で、金融庁は姑息な抜け道を用意した。「(優先株など)議決権制限株の総数は、発行済み株式総数の二分の一まで」とする規定を設け、普通株と同額まで優先株などを発行できるようにしたのだ。もっとも、優先株の発行枠が増えるということは、銀行が「事実上の国有化」になる公算が高まることを意味するだけに、当局や経営者にとっては痛しかゆしだろう。
優先株はその性質上、普通株に転換できるため、増えるほど潜在的に議決権を持つ株主(国)の比率が高まる。前回九九年に注入した公的資金(優先株)だけでも、全部が普通株に転換した場合の国(整理回収機構)の持ち株比率は、みずほが二三・一%、三井住友が二九・五%、UFJが三一・九%に達している。旧大和(六一・三%)と三井トラスト(五六・九%)は国の潜在的持ち株比率がすでに過半数を超えている。
メガバンクについても公的資金の追加注入で優先株の発行額が一定量を超えれば国の議決権比率が過半数を超えてしまう。これを国有銀行と呼ばずして、何を国有銀行といおう。その事態を懸念するからこそ、当局は四月から認められる「種類株」による資本注入をマスコミにリークしたりするのだ。
種類株とは特殊な株式発行形態のことで、議決権発生の要件が限定的な優先株による公的資金注入を、金融庁などは検討しているらしい。なまじ銀行を国有化すれば、日本長期信用銀行(現新生銀行)や日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)の際のような面倒に巻き込まれるのは必至とみて、逃げを打っているのだ。
金融庁が公的資金の追加投入を嫌う理由はそればかりでない。銀行株の低迷で、前回注入した優先株に大量の評価損が発生している。ある試算によれば、普通株への転換価格と実際の株価との逆ざやの発生で、一月下旬の段階での評価損は一兆円を超える。

嗚呼!「失われようとする十年」

公的資金の追加投入に際しては、こうした評価損が国会で大問題になるのは必至である。もちろん山本惠朗富士銀行頭取(全銀協会長)ら銀行経営陣も、この事実はよく承知している。「注入するふりをして、実際には注入しない」という金融庁の高等戦術は、評価損隠しの苦肉の策でもあり、行政当局と銀行経営者は共同正犯なのだ。
繰り返される先送りを、海外勢は冷ややかに見ている。米格付け機関のムーディーズは三月に発表した邦銀の信用リスクに関するリポートで、次のように分析する。メガバンクの貸出資産二五〇兆円に対して含み損が一〇〜一五%(金額にして二十五兆〜三十八兆円)として、この損失を短期に実現する必要に迫られない限り、年間三兆円にのぼる償却前利益を使って今後十年余りで吸収していこうとするだろう@@。
嗚呼。「失われた十年」に続く「失われようとする十年」。日本の金融システムは、ステロイド漬けになった銀行の自己資本と、不況下で新規発生の止まらない不良債権の「ビッグバン」で弾け飛ぶのだろうか。

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