(1)住宅ローンから多重債務者激増
住宅ローンを返済する資金を得るために、消費者金融などの高利のローンを借り、その繰り返しで自転車操業に陥るサラリーマンが増えている。
多重債務者問題に詳しい黒川辰男・弁護士は、金融機関の対応が多重債務を助長していると指摘する。
「住宅ローンが多重債務のきっかけとなるケースは非常に多い。なんとか家を守ろうとして、より高利の消費者金融から借金する。常識的に考えて、住宅ローンが払えないほどだから、消費者金融の借金など返せるはずがない。それでも銀行はまず延滞金の一括返済を求め、そうすれば返済計画の見直しに応じるが、できなければ代位弁済に回すと条件をつける。債務者はパニックになって消費者金融に走る。本来なら、延滞分も含めて、返済計画をつくり直せば、多重債務に追い込まれずにローンを返していける人は多いのです」
それでも銀行側が“どんな方法でもまず延滞金を返済せよ”と迫るのは、消費者金融から借りさせても、とにかく銀行の借金を減らしたうえで、担保の家を競売にかけて融資を回収するためなのだ。
銀行はいまや、支店の渉外担当を総動員して住宅ローンの借り手の身辺を探り、“次はどの家を売り払うか”を虎視眈々とうかがっている。
大手銀行の企画部門幹部が明かす。
「住宅ローンの強引な回収に入るのは、将来、問題になりそうな債権を早目に処分しておこうという後ろ向きの理由も多い。不良債権になってからでは処分は難しく、金融庁には睨まれる。そこで行内では組織的に契約者の個人情報を集めてリストをつくり、マイナスの要素を指摘して追加担保を求めるといった圧力をかけ、場合によっては住宅の任意売却を持ちかける」
では、どんな借り手が回収のターゲットにされているのか。
(2)破産に追い込む極秘査定マニュアル
本誌は、大手銀行をはじめ、信用金庫、信用組合など複数の金融機関から、住宅ローン回収の極秘査定マニュアルを入手した。
それによると、最も重視されるのはローンの返済状況と本人の借金歴だ。住宅ローンの延滞があれば完全にブラックリストに載せられている。しかも、その回数(期間)によって、
■1回 監視態勢強化
■3回 回収検討
■6か月 担保物件売却
――と、決まっている。
延滞がなくても安心はできない。クレジットカード会社への支払い状況や消費者金融からの借り入れなど、住宅ローン以外の負債はすべて知られているとみていい。消費者金融から借金歴があった場合、住宅ローンはキチンと返していても、即、要注意人物とされる。さらに借り手の資産状況や勤務先、役職、年収などは当然、融資査定の際に申告させているが、その後の調査によって、より突っ込んだ個人情報が集められる。
≪行外秘≫の印がつけられた大手銀行の資料には、担当者が収集すべき情報として次の項目が列挙されている。
<本人は社内でどれくらい昇進する見込みがあるか>
<会社に将来性はあるか>
<会社に不満を持っていないか話題を向ける(離職の可能性はないか)>
健康状態にも目を配る。
<過去入院した経験がないか雑談の中で聞き出す>
<酒やたばこの嗜好を尋ねる(自然な会話を装う)>
家族構成のチェックも重要だ。全員の年齢と勤務先や通学先、最終学歴、別居か同居か。とくに、病人を抱えていると要注意とみられる。
<病人がいないか(介護が必要な老人、持病の有無など)>
――という具合に、住宅ローンの返済が滞る原因になりそうな要因を徹底的にアラ探しするよう指示している。
「勤務先の経営状況はメーンバンクに問い合わせるのが確実だ。本人の将来性や評判は同じ会社の契約者がいればそこから話を聞いたり、営業を装って会社や近所を訪問し、雑談の中で家族の情報などを聞き出すこともある」(地銀の副支店長)
銀行マンはいつから探偵になったのか。
銀行はむしろ優良な借り手の中から回収対象を見つけるために、集めた個人情報を『顧客情報ファイル』と呼ばれるデータベースに入れ、点数化して記録している。本人が知らないうちに≪住宅ローン破産予備軍≫という評価を下されているかもしれないのだ。
もともとそうした情報管理は大手銀行より地域に密着した信金、信組の方がノウハウがある。大手銀行は信金の担当者を招いて個人情報収集の講習会を開き、≪探偵養成≫を進めようと躍起だ。有力信金の幹部が語る。
「本人チェックの場合、健康状態そのものより、むしろどれだけ健康に気を使っているかを見る。借金についても、金額自体もさることながら、友人に平気で借金を申し込む性格かどうかの方がリスク管理には重要だ。逆に、あまりにもお人好しの世話好きだと、悪い友人などにカネを貸したり、保証人になってしまう危険性があるからマイナス評価になる」
この信金の査定表では、
<パチンコが好き>
<競馬によく行く>
<短気、飽きっぽい>
<酔うとおごりたがる>
<家族の悪口をいう>
<暴飲暴食することが多い>
<衝動買いが好き>
――などもすべてマイナス要因とされている。