ペイオフ解禁(※1)に照準を合わせたように、大手銀行は一斉に普通預金の利息をこれまでの年率0・02%から半分の0・01%に引き下げると発表した。東京三菱銀行に至っては、さらにその10分の1、「0・001%」という史上空前の低利回りを打ち出し、他行も追随する構えを見せている。
100万円を1年間預けても利息はわずか100円。東京三菱は10円である。銀行のATM(現金自動預払機)から営業時間外に預金を引き出すと1回最低105円の手数料を取られるから、それだけで赤字になる。それならタンス預金の方がましだというので、今や金庫がバカ売れしているという。
大銀行の金利引き下げは、見方を変えると“嫌なら預けてもらわなくてもかまわない”という国民への預金拒否宣言にも等しい。実際、4月1日からのペイオフの対象は定期預金などで、普通預金はあと1年間、全額保証される。そのため全国で大口定期の解約が相次ぎ、大銀行は普通預金が増え過ぎて運用先に困っている。これ以上の預金はいらないというのは本音なのだ。
大手銀行幹部は、今回の金利引き下げにはもう一つ別の理由があると打ち明ける。
「ペイオフ解禁直前に金利引き下げを発表したのは、金融庁から内々に指示を受けたからだ。大手各行は、本業の利益を示す業務純益ではどこも大幅な黒字で、これ以上金利を下げる必要はない。ところが、経営の苦しい地方銀行や信金などでは、ゼロ同然の金利すら負担になり、大手が金利下げを決める前から、すでに0・01%やそれ以下に下げていたところもある。そうした中小銀行が金融庁に“大手との金利差を何とかしてほしい”と泣きつき、今回の決定につながった」
柳沢伯夫金融相は「ペイオフ体制は整った。破綻しそうな金融機関はない」と安全宣言を出したものの、その裏では現在も経営難を解消できない銀行を救うために、行政指導の形をとった≪官製談合≫によって国民に一層の低金利を押しつけていたのである。
市場では、すでに≪ペイオフ第1号≫になるとみられている銀行がいくつかある。ところが、ペイオフに向けて銀行の経営実態を情報公開するどころか、金融庁は相変わらず危機隠しに躍起になっている。
銀行は国の超低金利政策と税金投入という二重三重の救済措置で史上空前の利益をあげながら、不良債権処理を理由に税金も納めようとしていない。それに対し、東京都は外形標準課税(※2)、いわゆる銀行新税を課したが、東京地裁の判決(3月26日)で違法とされた。
石原慎太郎都知事は判決が下ると、
「国民の意思は無視され、喜ぶのは銀行だけ」
と語気を強め、即刻、控訴の方針を示した。一方、その夜、原告の大手銀行幹部たちは≪勝訴祝い≫と称して夜の街に繰り出した。預金者をバカにして自分たちだけ護送船団を続ける金融庁と銀行への国民の怒りは石原氏と同質だろう。
※1ペイオフ解禁/4月1日から、定期預金など一部の預金でペイオフ制度が解禁された。ペイオフとは、金融機関が破綻した際に預金保険機構が預金払い戻しを保証する制度で、上限は1000万円とその利息までと定められている。これまでは全額保証されてきたため、預金者の金融機関選別が一気にシビアになると予想されており、特に中小金融機関は預金流出に神経をとがらせている
※2外形標準課税/東京都は、大手銀行が不良債権処理による最終赤字を理由に法人税を払わないのは不公平だとして、00年度から5年間の時限措置で、不良債権処理の資金を差し引く前の「業務粗利益」に課税する条例を施行した。銀行側は「大手行だけ標的にするのは法の下の平等に反する」として都と石原知事を提訴していた