新年度に入り、ペイオフ解禁と同時に新たなスタートを切った世界最大の銀行、みずほグループも、その巨体ゆえにデフレ不況の影響をモロに受け、荒波にもまれながらの船出となった。
ついにペイオフが解禁された。これからは、金融機関が破(は)綻(たん)した場合、定期預金は「元本1000万円とその利息」までしか保護されなくなる。預金者は“虎の子”を「寄らば大樹」とばかりに大手銀行に預け替え、預金の種類もあと1年間は全額保護される普通預金にシフトさせるなど、自己防衛を図ってきた。ただ、多くの金融機関は膨大な不良債権を抱えて、アップアップの状態。預金者はしばらく虎の子死守に頭を悩ませることになる。
「どこに、どう預ければいいのか。ペイオフが解禁だから、『とにかく何かしておかなければ』という不安が膨らんだようだ」
大手銀行関係者が預金者の心理を解説する。
これからは金融機関が破綻した場合、預金者に確実に戻ってくる預金は原則「元本1000万円+その利息」までとなる。それを超える部分は「資産の残り具合」によって、戻ってくる額が違ってくる。
もっとも「巨額の不良債権を抱え込んで苦しんでいる銀行に、どれくらいの資産が残るかはきわめて疑問」(金融担当アナリスト)という状況では、全額が戻ってくることはまずなさそうだ。
預金者の最大の関心事は「安全な銀行」となって、「大手は安心という“幻想”」(外資系証券金融アナリスト)から、都銀などに資金が集まることに。今年2月末時点の個人預金の増加額は、東京三菱が2兆8444億円(前年同期比14.3%増)、三井住友が1兆5959億円(同5.6%増)などとなっており、預金者の“大樹志向”は顕著になっている。
また、今回のペイオフ解禁の対象は定期預金などの「定期性預金」。普通預金などの「決済性預金」は来年3月末までは全額保護されるため、一時的な避難先として普通預金への大量シフトも続いてきた。
ただ、これは「あくまでも1年間の猶予」(前出の金融アナリスト)に過ぎず、来春を見すえた預金移動が今後盛んになる。
地方自治体やマンション管理組合など、多額の「他人の金」を扱う組織も対応に必死だ。
約1兆7000億円という巨額の公金残高を持つ東京都では、安全確保のため、定期性預金をすべて解約し流動性預金に切り替えた。さらに、独自に取引のある金融機関を格付けし、格付けの低いところに対しては、「中途解約」すら辞さない姿勢を示している。
ある自治体の出納幹部は「大手の銀行だから低い格付けにならないということはない。事実、うちでは、大手銀行でありながら『安心して預けられない銀行』にランクされているところがある」と明かす。
では、どう金融機関を選別すればいいのか。
柳沢伯夫金融担当相は「1日の解禁以降、シャッターを開けているところは健全行のみ」と“おおみえ”を切ったが、この言葉をうのみする向きはまずいない。
大手12行の不良債権はここ1年間で4割ほども増え、24兆円強となる見通しだ。当然、不良債権処理にともなう損失は膨らみ、14年3月期は12行すべてが最終赤字に転落する見込みとなっている。
「ちょっとでも信用不安が持ち上がった銀行には、取り付け騒ぎが起きる可能性が高い。つまり銀行はアッという間に資金繰りに行き詰まり、預金者は気が付いたときには破綻で預金を引き出せないという事態が予想される」(大手証券アナリスト)
“虎の子”を預けるほうも預かるほうも、胃の痛い日々が続くことになりそうなのだ。