●小泉首相も横浜市長選敗北の責任免れず
政局は、3月31日投開票された横浜市長選で、弱冠37歳の前衆院議員、中田宏氏が自民党など4党の支援を受けた現職、高秀秀信氏を破ったことが小泉政権に大きな打撃を与えている。もともと現職候補には「高齢多選」批判が強かっただけでなく、自民、民主両党内も分裂、さらに鈴木宗男、加藤紘一、辻元清美3氏の不祥事が選挙選に大きく影響した。小泉純一郎首相自身は中田氏に激励の言葉を贈るなど心情的には同氏支持だったとみられるが、自民党総裁として、また地元・神奈川県の県庁所在地の選挙ということを考えれば、首相の責任は免れない。今後、1カ月以内に京都府知事選や衆参両院補選が控えているが、もし連敗するようなことがあれば、早期の政権交代あるいは衆院解散が公然と取りざたされることになろう。
●加藤氏の一刻も早い政界引退を勧告する
秘書給与の詐取疑惑で社民党の辻元清美前政審会長が議員辞職したのに続き、自民党の加藤紘一元幹事長が議員を辞職するどうかに焦点が移ってきた。同氏は前事務所代表の脱税には一切関与していないとの態度を一貫してとってきたが、ここにきて1億円近い政治資金が同氏の個人口座に振り込まれ、自宅マンションの家賃や生活費に使われていたとの疑惑が新たに浮上してきた。
もし、これが事実なら政治資金規正法違反や所得税法違反の疑いも生じ、議員辞職は不可避となる。ただ同氏は「国会で事情を説明すれば分かる」と、即時辞職を拒否、あくまで戦う姿勢を崩していない。しかし毎月160万円(300万円という説もある)もの振り込みがあり、しかも私生活に使われていたことを「全く知らなかった」では世間が通るわけがない。もし本気でそう言っているとしたら、希代の悪人か大ばか者か―そのどちらかである。
私はかつて同氏のことを「優柔不断のかたまり」と評したことがあるが、往生際の悪さも極め付けだ。もちろん疑惑を晴らす前に何がなんでも議員を辞めればいいというものではない。有権者に選挙で選ばれ、憲法にも保障された国会議員の地位はそれほど軽いものではないことも事実だろう。しかし、それにしてもだ。一昨年の「加藤の乱」以来の同氏の“とち狂い”方は一体どうしたことか。仮にも総理を嘱望された人間のやることとはとても思えない。弁解も聞き飽きた。一刻も早く潔く政界を引退されることをお勧めする。
●「パンドラの箱」を開けた辻元氏
辻元氏の秘書給与詐取に土井たか子社民党党首の周辺が関わった可能性については先週指摘したが、その後、疑惑はますます深まるばかりで、土井氏の進退問題にも発展しかねない状況となっている。特に、辻元氏が議員辞職会見で、秘書給与詐取の手引きをしたと思われる人物について「紹介を受けた方がいる」とし、さらに「名前は差し控えさせていただきたい」と述べたことで、疑惑はほぼ確定的となった。本来なら議員辞職を決断した人間はこういうことは言わないものだが、勘ぐれば、“内部犯行説”をほのめかすことで、土井氏ら党執行部をけん制したとも受け取れる。さらに、議員は辞めるが党にはとどまるとの発言も、社民党として議員辞職後の生活を保証することで辻元氏の“口封じ”を狙ったとも解釈できる。
記者会見での辻元氏の批判の矢は、一見、加藤、鈴木両氏ら自民党に向けられたかのうように見えたが、その実、社民党に向けられたものだった。秘書給与詐取について同党は党ぐるみで行っている可能性が高く、その意味では辻元氏自ら「パンドラの箱」を開けたとも言えよう。
そもそも辻元氏は土井氏が見い出した「逸材」のはず。その飼い犬に手を噛まれ、の存亡の危機にまで立たされている土井氏も哀れだ。同氏の「個人商店」的色彩の濃い社民党だが、今回、手酷い打撃を受けた同党がいずれ遠くない将来に消滅する可能性すら出てきたといえよう。
●辻元氏を「ヨイショ」しただけの田原総一朗氏
それにしても辻元氏が墓穴を掘るきっかけとなった3月24日の全国朝日放送<9409>(テレビ朝日)番組「サンデープロジェクト」の醜悪ぶりはどうだろう。翌日深夜のTBS「ニュース23」と比べてもその違いは際立った。辻元氏が若い頃から司会の田原総一朗氏と親しく、最初から“出来レース”であることはある程度予想できたが、これほどまでとは思わなかった。1時間40分間の番組中、全編ほぼすべて辻元氏を持ち上げるだけで、仮にも疑惑の渦中にある人物に対する独占インタビュー番組の体を成していなかった。田原氏がジャーナリストとしての志をかけらでも持っていたら、決してああはならなかっただろう。何でも米国の方が優れているなどと言う気はさらさらないが、米国の同種の番組でこの体たらくだったら、抗議電話が殺到し、司会者は一発で下ろされただろう。その場合、田原氏のジャーナリスト生命ももちろん終わるであろう。
この点についてフジテレビジョン<4676>の村上光一社長は、3月28日の会見で「ある意味で利用されたのではないか。(辻元氏)擁護の方向にバイアスがかかっているのではないか」と批判。これに対して田原氏は「全体像を聞き出したいと思った。辻元氏は全部、新事実を言っていた。何が(辻元氏への)ヨイショだ」と反論したが、それは強弁というものだろう。番組の最後の方は時間が余り、田原氏が出演者一同に辻元氏への「ヨイショ」を促した光景は信じ難かった。これでは「報道番組」の看板が泣こう。
●石原都知事が小泉首相に「倒閣宣言」
小泉内閣の支持率がじりじりと下がる中にあって、新党結成を目指す石原慎太郎都知事の動きが目立っている。石原氏は3月28日、首相官邸を訪れ、小泉純一郎首相に対し、「今度の国会の中で不審船を引き揚げる決定をしないなら、あなたの内閣を倒しますよ」と東シナ海に沈んだ朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)籍の不審船の引き揚げを迫った。同日の会談の主題は都市再生問題だったが、冗談めかしながらも「倒閣宣言」をしたことが永田町で大きな話題となっている。
都知事は2003年4月22日が任期切れで、もし再選を目指すなら年内には意向を固める必要がある。一方、衆院の任期は2004年6月24日で、もし衆院の任期満了選挙に石原氏が出馬するとなると、都知事に再選されて1年後に辞めることになり、都民の批判は必至だ。それだけに石原氏とその周辺は年内の衆院解散ありとみて、活動を活発化させている。確かに、石原氏は最近、都庁にいるより永田町で中曽根康弘元首相や亀井静香前政調会長ら自民党の大物議員と会っていることが多く、こうした見方に拍車をかけている。
ただ石原氏が都知事の面子にかけて導入した大手銀行への外形標準課税に対し、東京地裁が3月26日、違法判決を下し、都の全面敗訴となったことが、大きな痛手となった。さらに横浜市長選でも敗れた現職候補を3度にもわたって応援した“感覚のスレ”は石原氏のカリスマ性にも響く可能性がある。
(政治アナリスト 北 光一)