「沈む船に乗る者はいない」と2日後に迫ったペイオフの4月解禁を前に、石原慎太郎都知事による大手銀行17行の格付けが取りざたされ、銀行業界が戦々恐々のほか、余波は永田町にまで及んでいる。「中途解約」が必要な最低ランクの3行と、次いで「新規預金停止」の1行はどこか。引き金が引かれると日本列島は金融パニックに陥り、小泉政権が崩壊する恐れもある。慎太郎知事が一躍、石原新党含みの「政局のキーマン」に浮上するだけに、各党は情報収集に躍起となっている。
東京都は後述の17行に約1兆2000億円の公金を預けている。ペイオフ解禁後に預金先の金融機関が破綻(はたん)すると、1000万円を除き、すべてがパアになる恐れもある。
このため、都はこのほど別項のように、(1)複数の格付け会社のデータ(2)自己資本比率(3)預金量の推移−の3つを指標にして6段階に分類し、独自の厳しい格付けを行った。
都は中途解約などを含む取引制限も視野に入れており、その基準に照らすと、3行が「中途解約」、1行が「新規預金停止」に当たるという情報である。
銀行側にすれば、格付け情報がおおっぴらに流れると、一般の預金者にも影響が出るだけでなく、「超大口預金者の都が中途解約に踏み切れば、一気に取り付け騒ぎを起こしかねない」重大事に発展する。
銀行側が戦々恐々となるのは当然だが、一見関係ないように見える永田町でも話題騒然となっている。
「これで、慎太郎知事はいつでも政局の引き金を引くキーを手に入れたも同然だ」(与党幹部)と分析しているからである。
3月危機こそ「カラ売り規制」の株価対策や、過剰債務企業の処理など問題の先送りで乗り切ったものの、「根本的なデフレ対策はほとんど手をつけていない」(自民党参院幹部)。
「都庁が資産を動かすことで、取り付け騒ぎを起こさせるようなことはありえない」(都庁筋)というのが常識である。
政府も再三にわたり、「もしも金融システムに危機が訪れるようなことになったら、公的資金を再注入する」と明言している。
だが、与党幹部は「4、5月に大型倒産が相次いで金融不安が起きると、都が預金を動かしても批判は浴びないだろう。先延ばしの経済政策に終始した小泉政権がヤリ玉に上がり、一気に解散・総選挙含みの政局になる」と指摘する。
ズバリ、「現政権の経済無策を批判し、石原新党が名乗りを上げる絶好のタイミングがやってくることになる」というのだ。
慎太郎知事は実際、月刊文藝春秋の3月号で「多くの国民が夢も希望も与えられず、改革の痛みだけを味わわされている」「処方箋(しょうほうせん)が間違っている」と断じる論文を掲載。現政権の経済施策に批判的な立場が目立つようになってきている。
夕刊フジ創刊1万号の特別取材の際にも、「国が全然ダメ。国民が閉塞(へいそく)感にあえぐのは具体案がないからだ。私は出しているのに、(永田町は)議論を起こそうともしない」と焦燥感を語った。
そのうえで「自分が何か役に立つ時は、立ちたいと思う」と述べ、都政を超えて国政の立て直しにも強い意欲をにじませていた。
「慎太郎知事が名乗りを上げれば、民主党に押され気味になっている都市部の自民党議員は、雪崩をうって“慎太郎新党”に走りかねない」(自民党中堅)
そんな見方が根強いだけに、「都が今後の経済情勢でどう動くか。独自の『格付け』、都財務局の経済見通しがどうなっているかなどの情報は今後の慎太郎都知事の動向を推し量る情報は何でも欲しい」(与党幹部)と、真顔で情報収集を急いでいる。
【都の取引銀行】
富士▽第一勧業▽東京三菱▽三井住友▽UFJ▽大和HD(大和、あさひ)▽日本興業▽新生▽あおぞら▽三菱信託▽住友信託▽安田信託▽UFJ信託▽中央三井信託▽都民銀行▽千葉銀行=順不同
【都の格付け基準】
自己資本比率を厳しく設定し、銀行法の規制基準で国際ルールの8%を上回る10%程度とした。
ランクは『1』と『2』が「預金制限なし」▽『3』と『4』は「預金期間や商品を制限」▽『5』は「新規預金停止」▽『6』は「中途解約」とした。
都は「影響が大きい」として取引先17行の内訳を明言していないが、『1』が1行、『2』が8行、『3』がゼロで『4』が4行、『5』が1行、『6』が3行−が大方の見方だ。
「中途解約『6』のレベルとなっても、まずは相手行にヒアリングするのが第一。(解約の)具体的な手順は一切考えていない」(都出納長室)
とはいえ、都はすでにペイオフ対策として、定期預金を普通預金に一時避難させるなどの措置を実施しており、近いうちに何らかの行動に出るのは確実だ。
ZAKZAK 2002/03/30